PROFILE
鳥羽 周作さん
「Gris」をリニューアルし、「sio」のオーナーシェフに。Jリーグの練習生、小学校教諭を経て、フランス料理界に飛び込んだ、異色の経歴を持つ料理界の革命児。
コロナ禍中、フレンチレストラン「sio」は、楽しいアイデアと圧倒的なスピードで、多彩なプランを表明した。
「どんな状況下でも、初動の動機は支えてくださってきたお客さまが求めていることを『おいしい』で解決し、喜んでいただくこと。徹底的にお客さまにベクトルを向けているので、何をすべきかは自然と見えました」
打ち出したのは、お弁当、SNS上で発信する自宅で作れるレシピの公開、デリバリーなど。緻密で繊細なメニューを提供するレストランのスタイルとは、まったく別のアプローチだった。
「山に登るにはある程度のトレーニングと登山用の装備が必要ですよね? それと一緒。新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた頃から、お弁当に切り替える飲食店は多かったけれど、僕はお弁当をナメちゃいけないと思ったし、この問題は中長期的なスパンで捉えないと厳しい闘いになる、と」。鳥羽さんはなんと、お弁当の本や曲げわっぱを買って自宅に3週間引きこもり、冷めてもおいしいことを前提に、お弁当に関するリテラシーを高めてから開発にのぞんだ。
「まずはsioイズムを盛り込んだバインミー、ガパオや生姜焼きが主役のカジュアルなお弁当を。浸透したタイミングで“#sio贅沢弁当”を提案しました。これは僕らが発信する総合感動体験型レストランを自宅で楽しんでもらおうがコンセプト。お弁当という枠内で、コース仕立てで彩りよく、料理人としての技や世界観を味わってほしかった。お客さま自身が息切れしないよう、応援ではなく価値として購入していただきたい気持ちもあって」
外出自粛期間中、スーパーに通う日々から生まれたのが、“#おうちでsio”。鳥羽さんのTwitter上で公開した140文字のレシピだ。
「毎食作る方はもちろん、コロナ禍で料理をせざるを得なくなった初心者でもできるレシピ。身近な調理器具で10分以内にできて、材料も決めつけずに、“イタリアンパセリがなければ大葉でも”みたいに、余白を持たせながら、再現性の高いレシピを提案しました」。さらに“#おうちでsio”を楽しむために選曲したプレイリストの公開、夏に向けてタコライスなどをのせた色鮮やかな「チキントーバーライス」も登場。ワクワクが止まらないし、何より、それを語る鳥羽さんが楽しそうだ。その原動力は何なのか?
SNS上で、「簡単で再現性が高い史上最高ナポリタン!」と話題になった「♯おうちでsio」のレシピ。
「利益ベースの話ではなく、いろんな“おいしい”をお客さまに届けたいだけ。だけど新しいコンテンツは騒動とともに終焉ではなく、成長していく。世の中に広がっていくことで、『sio』を知らなかった方がレストランに足を運ぶきっかけになり、味、サービス、空間、音楽……魅力をトータルで味わってもらえたら。
今、レストランは本質を見定められ、あり方を問われる厳しい時代です。僕らはお客さまとともに愛と想像力で苦境を乗り切り、料理やレストランのあり方を、より多くの人に広めて伝えることに力を注いでいきたい。『sio』のテーマは“人々の幸せの分母を増やす”こと。終わりなきゴールに向け、日々できることを全力でやるだけです」
「sio」らしく、スパイスをきかせた「HEY! バインミー」をはじめ、テイクアウトメニューは今後も続けていくそう。