2020.07.10

L'Effervescence(レフェルヴェソンス)/ 医療現場への支援を通じ、食の持つ力を再確認

PROFILE

石田 聡さん
「サイタブリア」代表取締役社長。「レフェルヴェソンス」、「ブリコラージュ ブレッド&カンパニー」「ラ・ボンヌターブル」など独自の存在感を持つ店舗を経営。

 世界中の美食家を魅了する革新的な一皿を提供するガストロノミーレストラン「レフェルヴェソンス」をはじめ多くの店舗を経営する石田さん。コロナ禍とどう向き合ったのか?

「この状況が半年続いたら飲食店はどこもつぶれる――業界の危機を案じ、早い段階から『ハジメ』の米田肇シェフや弊社の生江史伸シェフが政府に嘆願書を提出していました。営業補償を含めた政策が明確になるまで時間がかかり、自分で決断しなければならない個人店は多かったと思います。僕らも同じで、パン店のテイクアウトを除き、レストランは4月初頭から全店クローズしました」

 スタッフの安全を第一に考え、まずは自粛。充電期間ととらえ、再オープンの準備ややらなければいけないことに最善を尽くした。

「4月5日、『シンシア』の石井真介シェフがフランスでは医療現場にプロの味を届ける支援活動があり、日本でもできないか、とFacebookにアップしていたんです。僕も同様に考えていたので、すぐに連絡を取り合い、8日には『NKB』の役員、寺田裕史さん、料理人集団『シェフス・フォー・ザ・ブルー』の代表・佐々木ひろこさんなど10名が集まり、ミーティングを行いました」

 有志で発足した「Smile Food Project」。どんな料理がベストか、医療従事者の友人・知人に聞くと、「食事の時間もままならず、いつ食べられるかもわからない。衛生面や感染リスクを考慮すると、キッチンカーなどを使うより、個別に食べられるお弁当がベストだとわかりました。社内にはケータリング業のためのセントラルキッチンがあるので、そこで細心の注意を払いながら調理することに」

コロナ禍中、医療現場で働く人へ、本格的なシェフの味を届ける「Smile Food Project」を発足。一日計400食、計2万食を目標に掲げている。

 5日後には都内の医療現場に100食のお弁当を届けていたというから驚きだ。

「ケータリング部門がある僕らを除いて、大量製造やお弁当作りに慣れていないながら、一流のシェフたちは瞬時にコツをつかみ、冷めてもおいしいレシピを開発。和洋中さまざまなジャンルのプロが集まっているので、お互いよい刺激・勉強にもなっていましたね」

 石田さんはできる限り医療現場に自ら足を運び、そのつど状況を聞いている。

「さまざまな状況の病院に伺いましたが、報道で見ているよりも、総じて現場の医療従事者たちの疲弊は深刻でした。『食事は距離を保ちつつ、無言で簡素なものをとる日々だったので、お弁当に救われました』というメッセージが届いたときは、心にしみました」

 今回のプロジェクトは医療現場への支援に加え、もうひとつ狙いがあった。

「多くのレストランが休業している状態で、困っている生産者を助ける目的で、できる限りそこから仕入れ、お弁当の食材に充てていました」。その活動を支えていたのは企業協賛とYahoo!募金。

「ありがたいことに2400万円の支援金が集まりました。感染者は徐々に減少していますが、入院患者はまだ多くいるので、医療従事者への負担は重くのしかかったまま。2万食を目標に、6月中は週6日、一日400食のペースで提供していけたらと思っています」

 活動を通して感じたことも多かった。

「ひと昔前は、おいしさを追求し、目の前のお客さまを喜ばせるのがシェフの仕事でした。けれど、この10年の間にフードロス、食料自給率、環境汚染、雇用……。避けられない問題がすぐそこにある状態に。シェフも経営者も社会性を持ち、物事をグローバルにとらえる賢さが必要とされるようになったと実感。コロナ禍において、自分たちに何ができるか? どう表現するか? これまでに蓄えた知識や経験が一気に現れたタイミングだったと思います」

調理はすべて石田さんが経営するケータリング部門のセントラルキッチンで。日々の検温や体調管理にも細心の注意を払って取り組んでいた。写真は立ち上げメンバーのひとり、「ザ・バーン」のエグゼクティブシェフ米澤文雄さん。

お弁当は要望があった医療機関へ届けられた。

 さて、第一線を走り続ける「レフェルヴェソンス」は10周年を迎えた。料理、サービス、価格、内装すべてを刷新し、6月から再スタートをきった。

「活動を通し、食の重要性・普遍性を改めて感じました。しかし現実は価格競争や薄利多売の風潮に加え、コロナ禍による大打撃……レストランをはじめ、飲食業全体が非常に揺らいでいます。だからこそ、すばらしいものが“価値”として評価され、“対価”をいただくという形を確立しなければいけない。飲食業は本来、面白くてやりがいのある仕事。この世界に憧れた人が、明るい夢を持ち続けられる環境にするためにも、理想のモデルを『レフェルヴェソンス』という場でかなえたいと思います」

 



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