PART 2 長谷川祐子さん、真鍋大度さんに聞く NFT ARTの現在と未来

昨年のライゾマティクスの大規模個展でタッグを組んだ長谷川氏と真鍋氏。日本のアート界をけん引する二人が見据える、NFT ARTの今後の展開とは?

長谷川祐子さん
キュレーター、美術評論家、東京藝術大学大学院教授。2021年4月より金沢21世紀美術館館長に就任。近年では、オラファー・エリアソン、ライゾマティクスなどの個展を手がける。

真鍋大度さん
メディアアーティスト、プログラマー。2006年にライゾマティクスを設立。五輪セレモニーの映像制作など、国内外で活躍。2021年にはNFT ARTのプラットフォームを立ち上げた。

 

NFT ARTが生み出す可能性を探る

――お二人はNFT ARTとどのように出合ったのでしょうか?

真鍋大度(以下M) 2020年、パンデミックが起きて活動がオンラインにシフトし始めたとき、まわりでNFTマーケットプレイスのSuperRareに参入する人が出てきました。さらにメディアアートのコミュニティにいる人たちがTwitterでいろいろな議論を始めたのを目撃して存在を知った、という感じです。

長谷川祐子(以下H) コロナ禍で、真鍋さんが主催なさったイベントにゲストとしてオラファー・エリアソンと私が参加しました。その流れでライゾマの展覧会を企画することになり、真鍋さんに新しいコンテンツの相談をしたところ、一番関心があるのはNFT ARTと伺って。そこから怒涛の勢いで勉強したんです。

 僕、長谷川さんのNFT ARTに関するコメントで印象に残っているものがあって。2020年の夏に5分ぐらいで描いた落書きのような絵が数千ドルでやりとりされている状況があったんです。その際に「落書きみたいな画像データが高額で取引をされていることをどう思いますか?」と聞いたら、「アートってそんなもんじゃないの」と返されたんです。

 私はいわゆるコンテンポラリーアートのキュレーターなので、常識破りみたいなことが生まれる場所に長らくいます。たとえば1960年代にイヴ・クラインというアーティストが何もない空っぽのギャラリーで、〝空虚〟の展示として展覧会を行った。賛否はありつつもそれが作品として認知されたのを知っているので。すでにアート界は非物質的なものに価値を見出すことを経験しています。子どもが描いた猫の絵がNFT ARTとなる、そこに価値を見出していくのが新しい時代の常識となるかもしれないし、非常にクールなものだと捉えています。

――2021年にはNFT ART市場が急成長。背景に何があったのでしょう?

 投機目的の人たちが市場に参入し、金融的に高度なテクニックを使ってバブルを起こしたという側面はあります。一方でアーティストがたくさん参加するようになったのは、大手テック企業のプラットフォームやギャラリーの力を借りずとも作品が発表でき、売買できるようになったから。参入コストも低く、リスクが少ないように思われたからだと。

 クリスティーズとかサザビーズのような老舗のオークションハウスが参入したので、自分たちもやらないと乗り遅れると思って多くの人が参加したのも、一因といえるでしょう。もうひとつは、メディアアーティストたちにメリットが大きかったから。エディションをどう構築するかというような課題はありますが、作品を売ることが難しかったデジタルアート界において、この新しい仕組みはさまざまな可能性があるので期待されています。

――注目のNFTアーティストや、印象的なプロジェクトを教えてください。

 Dom Hofmannというアーティストが始めた「Loot」というプロジェクトは、キャラクターの初期設定が書かれたテキストのみ発表しました。あえてキャラクターデザインなどはなくて、購入者が画像などを二次創作してコミュニティが形成されていくのが狙い。作品のすべてがブロックチェーン上に存在することも重要で新しい形として印象的でした。あとは、高尾俊介くんの「Generativemasks」。このプロジェクトは最初にマスクの画像をNFT ARTとして販売、次はメタバースでそれを着用できるようにして、最終的に画像に沿った木彫りのマスクをアナログで作成するという計画らしい。今後どう展開していくのか注目しています。

 昨年、映画『竜とそばかすの姫』の主人公の衣装を、アンリアレイジがバーチャルでデザインしました。私はその衣装がNFT作品として販売され、ある美術館がコレクションをまとめて買ったという話を聞いて衝撃を受けました。


――NFT ARTは今後どういう展開になるのでしょうか?

 NFTは必ず残っていく技術だと思いますが、NFT ARTのバブルみたいな状態はいったん落ち着くかと。今は乱立しすぎていて、マーケットが信頼できるものかどうかの見極めが難しい。だからこそ僕は自分たちでマーケットを作ってみて、しっかりと仕組みを学んだ上で作品をリリースしました。

 キュレーターとしてアーティストに期待しているのは、この新しい仕組みの中で、どんな表現が生まれてくるのだろうということです。アートコレクターの方はNFT ARTを購入して、すでにVRで美術館を作っている。従来の美術館が作品を見せ続けることでアートの価値を維持するように、VRに人を迎えてコレクションを見てもらう。そこでNFT ARTの価値を維持し、理解してもらう。アートにとってよい悪いは別にして、私はこの状況を眺めているんです。新しい博物館学や、新しい展覧会のキュレーションが出てくることが面白いし、期待しています。昨年、大英博物館が北斎のNFTを販売しました。今後は他の美術館もNFTに参入していくのではと思います。

(右)クリエイティブコーダー、高尾俊介氏の作品「Generativemasks」(2021)
(右上から時計回りに)Generativemasks #4941 Generativemasks #1947 Generativemasks #1446 Generativemasks #2673
(中央)アンリアレイジが『竜とそばかすの姫』(2021)とコラボレーションしたDigital look
(左)ライゾマティクスが東京都現代美術館で発表したNFT作品
"Gold Rush" - Visualization + Sonification of Opensea activity (2021) 会場:個展『ライゾマティクス_マルティプレックス』(東京都現代美術館、2021年)

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