2022.06.12

ウクライナの写真家たちが抱く祖国への想い

プリント販売チャリティに参加したウクライナ出身の彼らが今思うこと

旧ソ連から独立した国での軍事衝突は、今に始まったことではない。しかしウクライナ情勢へのここまでの国際的関心度の高さには、デジタル・コミュニケーションの普及が一役買っているだろう。SNS上の無数の投稿では、感情的になってロシア軍非難に徹する人、冷静を保って情報拡散に努める人、悲しみを訴える人、と反応はさまざまだ。とはいえ、皆の目的はただ一つ、平和。その切なる願いは属するコミュニティにかかわらず普遍的なものだが、写真家にはビジュアルで一瞬にして思いやメッセージを伝えられる強みがある。こうして生まれたのが、写真のプリントをネットで販売し、売り上げをウクライナ救済を目指す慈善団体に寄付するプラットフォーム。「Pictures for Purpose」と「NEU WORK SHOP」、二つのチャリティ販売に参加することで故郷のサポートを続けるウクライナの写真家たちの話に、耳を傾けてみよう。

Pictures for Purpose
2020年にスタートし、経済的援助を要するさまざまな基金のためにプリントを募って販売する非営利団体。3月のオンライン企画には、ウクライナだけでなく各国の著名フォトグラファーが作品を寄せた。

NEU WORKSHOP
ミュンヘンにて写真界の若い才能の支援を目的にフォトグラファーのマヌエル・ニーベルレが主宰する、非営利の企画&展示スペース。ウクライナのためのネット上でのプリント販売では、$37,000を集めた。

Julie Poly ジュリー・ポリー

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@Julie Poly / Kyiv, Ukrzaliznytsia 駅 (2018)

ウクライナ東部のルハンスク出身、ハルキフの写真学校に学び、キーウに住んでいたジュリーはこう語る。
「2014年からのドンバス戦争でも愛する人々と連絡がつかない恐怖を体験しましたが、昨今の苦しさはその数倍。今私は臨月で、安全に出産できる場所をとりあえず見つけましたが、早く家に帰りたい」。

彼女は強烈な作風で知られるが、最近の報道でも目にするウクライナ鉄道の青と黄色の車両を背景としたこの一点には、愛情があふれている。
「私のインスピレーションは、それぞれの国らしさを感じさせるシーン。人生における出来事、友達、経験を、日々のバラードとして描いています。この写真は、愛する人が旅立つ瞬間、電車が走り出すまでハグする、私の友人ソニアとミシュカを捉えたものです」。

彼女はキュレーター、イザベラ・ヴァン・マルルからのオファーでPictures for Purposeに参加したほか、他のチャリティ企画販売にもプリントを提供し、募金や情報提供も惜しまない。「お互いを愛し、助け合って」とは、日本の読者へのメッセージだ。

Lena Pogrebnaya レナ・ポグレブナヤ

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© Lena Pogrebnaya / Odessa (2017)

建築家・写真家のレナが生まれ育ったのは、黒海に面した古都オデッサ。ロシア語を共通語とするこの街で、旧ソ連時代のユニークなモダニズム建築の学校に通い、ウクライナの教育を受けた彼女は、30歳を目前にある転機を迎えた。
「私の学生時代は、ウクライナが独立してから10年を迎え、この国らしさを取り戻しつつあった時期に重なります。私はここで、祖国と建築への愛を育みました」。

個人的にいろいろな問題に直面した彼女が、この場所で青と黄を基本色とした撮影を行なったのは、そんな理由から。
「私のビジョンが形成されたルーツに戻り、自分を解放したかったんです。一連の作品はYouth(若い頃)と名付けました」。
彼女の私的な想いが凝縮されたこの作品が5年後に祖国に献金する手段の一つとなったのは、なんとも皮肉な偶然だ。

4年前からはトルコとウクライナを行き来するようになり、現在はトルコのボドルムで連日のニュースに動揺しながらも、祖国のための支援活動を続けている。NEU WORKSHOPなどのプラットフォームでプリントの販売に参加するほか、食料や避難資金を必要とする人々へ送金したり、資金繰りが苦しくなった動物園の餌の購入をサポートするためにオンラインで入場券を買ったり。彼女は今の気持ちを"根っこから引き抜かれた木"に例える。
「ウクライナにはルーツを違えるたくさんの人々がいて、皆は自由の精神でつながっています」

Daniel Vaysberg ダニエル・ヴェイスバーグ

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© Daniel Vaysberg / Kyiv (2019)

ダニエルはウクライナ北東部ハルキフに生まれ、15歳でドイツに移住した写真家兼スケートボーダー、R.T.COショップ販売員。
「仕事、家、すべてを失った両親が、現在僕が住むベルリンにやっと来ることができたのは、4月上旬。母は開口一番『もう生きて会えないかもしれないと思った』と……」。

こう語る彼がNEU WORKSHOPに提供した写真でウクライナ国旗を振っているのは、キーウの中心地で見かけた、伝統的な衣装をまとった少年。
「何かのお祝いの日だったように記憶しています。僕が撮るのはエネルギーとフィーリング。雰囲気があると感じたら、その瞬間を捉えます」

Nikita Sereda ニキータ・セレダ

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© Nikita Sereda / Ukraine(2018)

ハルキフ生まれ。避難先のデュッセルドルフから、NEU WORKSHOPに写真を提供したニキータ。ウクライナ人の暮らしを広く知らしめたい、とドキュメンタリーから出発した彼はこう語る。
「時期によって宗教、性、自然と興味の対象は異なるけど、僕の作品は写真というより、好奇心の表現。知り合った人のストーリーを探るのが好きなんです。この少年に出会ったのは、自然が美しい西ウクライナでのある企画のためのキャスティングで。家に招かれて、僕は彼の家族全員に会いました。彼が着ているのは祝日や特別な機会に着る衣装」。

今は戦禍からは離れているものの、"権力が正当化されると、真実が力を失ってしまう"と懸念し、以前とはすっかり変わった日々を過ごすニキータ。
「ニュースをチェックし、国に残る両親や友人に電話することに時間を費やしています。毎日、祖国のために何ができるか考えるんです」

Posternaks ポスターナックス

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© Posternaks / Kyiv (2021)

「独立国ウクライナの歴史を知り、情報をシェアし、友人たちと話し合ってください。そして、最も大切なことですが、この話題に飽きないでください。日本の皆さんの団結に、とても感動しています。ありがとうございます!」。
こう語るのはキーウ生まれ、10年前よりニューヨークに住む双子の姉妹、タニア&ゼニア・ポスターナック。
「ここでの日常生活と仕事を続けながら、ニュースを頻繁にチェックし、二つの並行した現実を行き来するようになりました」。

姉妹にチャリティ販売参加を働きかけたのは、Pictures for Purposeだ。素晴らしいイニシアチブ、と二人はすぐに共感した。
「プリントを手にすることで、購入者はウクライナ支援への参加を、募金よりも現実的に感じてくれるでしょう」。

また彼女たちは、特定の地方の慈善団体にも直接送金をする。迅速なうえ、お金の使い道が明らかでレシートやレポートを送ってくれるからだ。
「ウクライナに残る友人や家族を心理的にサポートすることも大事ですね。89歳の祖父に『空爆に備えて窓から離れるようにね』とメッセージをしたり」。
その祖父への思いと重なるのが、このアイスクリームの写真。
「旧ソ連時代の名残を感じさせるありきたりな食べ物。素朴なだけに存在感が強い被写体で、ノスタルジーを表現しました。写真を通じて伝えたいのは人間らしさ、家庭、そして日常の何げない瞬間。それらを、色と質感を追求しつつ、ダイレクトに描いています」

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