ひと針ずつ心を込めて縫った、日用品やモビール
オーガニックファブリックのアイテムを手がけるアーティスト、チェ・ヒジュさん。韓国の伝統的な麻や苧といった素材を使い、ひと針ひと針丁寧に縫う。作品はポジャギ(韓国のパッチワークされた布)から日用品、オブジェなど幅広く、日本でも魚のモビール(1)が好評を博している。
景福宮からほど近い西村エリア。大通りから路地を一本入ると、ソウル中心部とは思えないほど静謐な雰囲気が漂う。約100年前に建てられた韓屋を訪れるのを楽しみにしていたという赤楚さん。ヒジュさんが時間をかけて改装したキッチンやダイニングスペースにある作品の一つひとつに興味津々。
「本当に繊細な仕上がりで、優しい印象を持つ作品ばかりですね。針仕事は気の遠くなるような作業だと思います」と語りながら、テーブルの上に並んだオブジェをそっと持ち上げたり、手のひらにのせてみたり。
服の仕立て職人だった父と趣味でポジャギを作る母を持ち、幼少期から手縫いの世界に親しんできたヒジュさん。その魅力を再認識したのは、かつて日本で暮らしていたときのこと。
「同じマンションに住む友達と出かけた帰り、車の中で誕生日プレゼントだよ、と手作りのコースターをくれたんです。それは亡くなったお父さんの浴衣で作ったものでした」
自分を大切に思う友人からの手縫いのギフトに感動し、涙が止まらなかったと語る。その後、友人や家族から本格的に裁縫の技法を学び、韓国でも作家として活動を始めた。
ヒジュさんの作品のモチーフは、自然など身近にあるもの。天然繊維そのものの風合いを生かして、ミニマルなデザインで仕上げている。そこにステッチを施し、リズミカルな表情に。韓国の伝統や感覚を愛らしく、温かみのある形で昇華するアーティストの一人だ。そこにはかつて大事な人からの贈り物に心震わせた原点が感じられる。
PROFILE
縫製作家。大学では韓国文学を専攻。卒業後編集者として活躍し、結婚を機に日本へ。自然からインスピレーションを受けて作る石や月などのオブジェや、ファブリック小物が人気。作品は漢南洞のLEEUM STORE、カロスキルのchapter1 editなどの店舗のほか、ウェブサイトからも購入可能。
https://www.choiheeju.kr/
instagram: @heewone21