土屋智哉さんに聞く「遠くまで楽に歩くため」の道具考【井之脇海と、山の話 第12回】

 冬休みに念願の雪山登山もできて(道具も一式揃えました!)、次の目標はテントで山に泊まること。となると、荷物をできるだけコンパクトに軽くしたいわけで。そこで、“ウルトラライト=UL”を得意とするアウトドア専門店「ハイカーズデポ」(東京・三鷹)におじゃましました。

山の先輩たちから「ハイカーズデポ」のことを聞いていて「行ってみたいと思っていたんです」という井之脇さん(井之脇さん)ブルゾン¥54,000/スタジオ ファブワーク(URU) ジャンプスーツ¥70,000・インに着たカットソー¥20,000/オーラリー 靴/スタイリスト私物

井之脇海(以下井) 「ウルトラライト」ってよく僕も耳にするんですが、ただ軽いってことだけではないんですよね?

土屋智哉(以下土) もともとは「ウルトラライトハイキング」と言って、アメリカのハイキングスタイルなんだよね。アメリカはメキシコ国境からカナダ国境まで4000㎞はあって、それをザック背負って数カ月もかけて歩く人たちがいて。できるだけ荷物を少なくして体への負担を減らしてあげて、自由に歩くことを目的としているんだよね。単なるハイキングスタイルを超えて、ものを持たない、社会から解放されて自由に生きるといった哲学的、ライフスタイル的なムーブメントにもなっていくんだけど。

 そうなんですね。

 うちの店は、そういったアメリカのバックパッキングカルチャーというか、旅としての山道具が中心なんです。だから、軽いものを多く揃えているの。海くんは、どんな山登りが好きなの? 百名山を全部登りたいんだよね?

 そうなんです。黙々と考え事をしながら歩くのが好きなので、長く山を歩いて旅するみたいなのは好きですね。テント泊で縦走もしてみたいです。

 “テン泊”いいね! どれくらい休みはとれるの?

 うーん、長くて2泊とかですかね。

 海くんみたいに短い日数である程度の距離を歩きたい場合も、荷物は軽くて小さいほうが体力温存できていいよね。昔はテン泊するならザックは60ℓは必要だとかいわれていたけど、今はテントや寝袋も小さくなっているし、40ℓ程度でも1週間くらいはいけると思うよ。(40ℓのザックにテント、寝袋、マット、防寒着、調理道具を詰める)

 これでテント泊のもの、全部入るんですか?

 入るよー!

 (そのザックを背負って)か、軽い(笑)! テントも入ってこの大きさ、この軽さなんですか! このザック自体もすごく軽いですよね。

 そう、構造がシンプル。荷物を入れる筒に背負うベルトがついているだけで、外ポケットもない。やぶの中を歩いていても、ポケットが枝にひっかかったりしないし。布地自体が丈夫で雨にも強いから、ザック用のレインカバーもいらないでしょ。

 荷物がひとつ減るわけかあ。中で着替えが濡れるのが心配なら、防水袋に入れておけばいいんですよね。

 山の道具選びや何を持っていくかって、自分を知ることなんだよね。不安だからあれもこれも持っていきがちだけど、自分がどれだけ寒さに弱いかとか知っていれば、必要な防寒具がわかるでしょ。いつも、何を持っていくかではなくて、何を置いていくかだって言ってるんだけど。

 自分を知って、何を置いていくか、ですか。

 ザックに温度計をつけて、5 ℃のとき自分はこう感じるんだな、っていうのを知っていれば、必要なウェア選びもできるようになると思うよ。

 温度計、持っていて「マイナスだ!」とか言って喜んでいたんですけど……。もっと山での自分を知るように意識します(笑)。

土屋智哉さんに聞く「遠くまで楽に歩くための画像_1

知識豊富でトーク上手な店主・土屋さん。明るすぎる人柄に和まされる

土屋智哉さんに聞く「遠くまで楽に歩くための画像_2

軽くて頑丈、雨にも強いと聞いて「欲しい!」と選んだザックは、アメリカのガレージメーカー「HYPERLITE MOUNTAIN GEAR」。テント泊を予定しているこの連載のために土屋さんが選んでくれたテント、マット、寝袋、防寒着、調理道具などパッキングしてもらい背負ったら、あまりの軽さに「かるっ!」(井之脇さん)

Profile
いのわき かい●俳優。1995年神奈川県・横須賀生まれ。子役として活躍し、大学では映画を学ぶ。父の影響で登山を始め、日本百名山を全山登ることを目標にしながら、沢登りや雪山にも挑戦中。「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(フジテレビ)が4月より放送予定。

つちや ともよし●「ハイカーズデポ」店主。1971年埼玉県生まれ。慶應義塾大学探検部で登山を始める。アウトドアショップのバイヤー時代にアメリカで「ウルトラライトハイキング」に出合い、「軽量」をテーマにしたアウトドアギアショップを2008年オープン。著書に『ウルトラライトハイキング』(山と溪谷社)。

SOURCE:SPUR 2020年5月号「井之脇海と、山の話」
photography: Saki Omi〈io〉 styling: Kentaro Higaki〈little friends〉(Kai Inowaki) hair & make-up: Takeharu Kobayashi(Kai Inowaki) edit: Tomoko Yanagisawa

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