高山植物と岩の山。“ツンデレ”感ある木曽駒ヶ岳へ【井之脇海、山と自然を遊びつくす 第7回】

標高の高い山の雪も解けて、7月から本格的な夏山シーズンです。僕の家の一角に山の雑誌を集めたコーナーがあるのですが、休み前になると「週末・日帰りで行ける」をキーワードにどこだったら登れるか、を探します。百名山全山制覇を目指しているので(現在、16座目)、できれば百名山に選ばれている山がいいな、と。今回は、中央アルプス最高峰(2956m)・木曽駒ヶ岳に登りました。

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1 急勾配の八丁坂から、千畳敷カールに建つ千畳敷駅とホテルを見下ろす

中央アルプス最高峰といっても、木曽駒ヶ岳って登りやすいそうなんです。東京や名古屋から高速バスが出ているし、最寄りの駒ヶ根駅からは路線バスがあり、電車でもアクセスがしやすい。ロープウェイで2612mまであっという間に行けるので、実際の歩行時間は往復4時間ほど。初心者の方にも人気のコースらしいです。


ロープウェイ内の案内放送を聞いて知ったのが、駒ヶ岳の名の由来。山に積もった雪が解け始める4月下旬から5月中旬にかけて、山肌のくぼんだところに残った雪がまるで馬のように浮き上がって見えることからこの名前になったそうなんです。「雪形」といって、白馬岳、蝶ヶ岳などほかにも雪形からつけられた山の名前はたくさんあるそう。知らなかったな。

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2 ロープウェイの千畳敷駅を降りると、この壮大な景色。氷河が削れてできた2万年前の地形だそう。登山をせずに花畑を周遊するだけでも楽しい(約40分ほど)

 

ロープウェイを降りたら、いかにもアルプス! といった迫力ある千畳敷カールの景色が(1・2。カールって氷河によって削られた円形の地形のことで、そういえば学生の頃、習いましたよね)。畳1000枚、と名付けられただけあって、広い! 遠くにはそびえ立つ岩稜が見えて、今からあそこを目指すのかと思うとワクワクします。


最近の登山では、森のなかや樹林帯ばかり歩いていたので、こんなにも開けているワイルドな風景は久しぶりです。

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3 井之脇さんが「花のかたちが面白い!」と撮影していた白い花。コバイケイソウと判明

 

木曽駒ヶ岳山頂に向かって歩き始めると、登山道脇に多くの高山植物が咲いているのを見かけました。雪解けしたところから花が咲き始めるそうで、標高や場所で咲くタイミングがずれ、歩き始めたときは満開だった花が高度が上がるとまだ蕾。植物分布の違いがひと目でわかって楽しい! 北八ヶ岳にある、好きな山小屋「黒百合ヒュッテ」の名前にある「黒百合」も見られました。「あ、こんな花だったんだ」と、植物に詳しくない僕でもハッとするくらい面白い。ここまでたくさんの花を、一度に見ることができた登山って、今まで経験がなかったかも。

「山登りをしてみたい」、という友人がいるんです。彼は花好きで「きれいな花があったら1時間は動けないかも……」と言っていたから、きっと木曽駒ヶ岳だと、なかなか進めなくて登山に時間がかかるだろうな。

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4 頂上には、木曽駒ヶ嶽神社 奥社が。ホテル千畳敷のフロントでは千畳敷カールにある駒ヶ岳神社の御朱印をいただける

 

お花畑を抜けると、八丁坂といって一番の急登に。自然にできた岩の階段を登っていく感じが、楽しい。土とか木道ではなく、僕は足の裏に岩を感じるような道が好きで、この登りのきつさも大好物。ここさえ過ぎれば、あとは緩やかなアップダウンを繰り返して1時間ほどで木曽駒ヶ岳頂上に到着。

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5 千畳敷カールと木曽駒ヶ岳山頂を結ぶ途中にある中岳(2925m)山頂でひとやすみ

 

時間に余裕があれば、「濃ヶ池」という池を周回するコースもあるんですが、天気も崩れそうなのでピストンで下山することに。後日『日本百名山』を読むと、濃ヶ池は江戸時代から農民たちが雨乞いをした場所で、信仰の対象だったという記述がありました。

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6・7 夏の山は、午後から天気が崩れやすく、雷が落ちることもしばしば。木曽駒ヶ岳は樹林帯がないコースのため、雷から身を隠す場所が少なく危険なことも。今回は対策として13時前の下山を目指す計画を立てて都内を出発。下山直後に雨が降り始め、ほっとひと安心。雨&雷対策の計画と行動は夏山ではマスト!

昼を過ぎると、毎日のように雷が鳴る初夏の天気。この日も、あと15分ほどでロープウェイ駅に到着、というところで、雨が強く降り出しました。
誰かが、池に雨乞いしたのかな。

 

Profile

いのわき かい●俳優。父の影響で登山を始め、日本百名山制覇が目標(今回の登山で17座)。インスタグラム(@kai_inowaki)で、山の写真も発信。ドラマ「ギヴン」(FOD)に出演中。

 

SOURCE:SPUR 2021年10月号「井之脇海、山と自然を遊びつくす」
photography: Kazuhiro Shiraishi  hair & make-up: Naoki Ishikawa  edit: Tomoko Yanagisawa