ピンクを解放し、ピンクから自由を掴み取ろう!
確かに、ピンクに好き嫌いはあるとしても、これまで日本女性は概ねピンクに従順だった。ピンクを好まない人でさえ、自分が女性性を受け入れてないから悪いのだと自分を責め、ピンクの押し付けに対して団結して声を荒げることはなかった。ウーマンリブ運動が浸透しなかった代わりに、日本の女性たちはピンクの女性性をまとうことで社会進出を果たしたのである。
堀越英美さんは、頭が切れる人である。女児向けのものに圧倒的にピンクが多く、実際に自分の娘がピンク大好きになってしまったという経験を持つ堀越さんが、実体験から興味を持った「女子とピンク」の関係性について読み解いていく本書には、多数の事例が取り上げられているが冗長な箇所はひとつもなく、無駄な文章は一行もない。研ぎ澄ました刃物のように鋭く、でもそれは誰かを攻撃するための刃ではない。そんな本である。
極めて理性的に書かれた本であるから、泣くような本ではない。しかし、何度も泣きそうになった。私は、自分は大人になってからピンクという色に対する抵抗を克服した、と思っていた。けれど、なぜ克服しなければいけなかったのだろう。克服しなければ、と思わせられたのはなぜだったのだろう。男にもてなければ価値がないと、どんなに仕事ができても女はかわいくなければ意味がないのだと、思わせられたのはなぜだったのだろう。そしてその呪いが、今も完全に解けたとは言えないのは、なぜなのだろう。
本書はそうした、知らず知らずのうちに「女にかけられている呪い」を解きほぐしていく。まるで生まれたときから呪いをかけられていた眠り姫の呪いを解くように、いばらを切り裂き、目覚めさせる。王子様のキスで、なんかじゃない。ただ「自由に生きるために」目覚めさせるのだ。堀越さんがいばらを切り裂き作った道は、女だけではなく、ピンク色から拒まれた存在である「男」も自由にする。
淡々と、ときにユーモアを交えつつ、平熱で書かれた極めて読みやすい本でありながら、明晰で爽快で、心の奥の奥まで届く。ピンクに対するもやもやがあってもなくても、私たちはいったい何に縛られているのかを知るために、読んだほうが良い一冊だ。女性性とは何かを語るうえで、この先ずっと、欠かせない一冊になるはずだ。
「女の子は本当にピンクが好きなのか」(堀越英美/Pヴァイン)
雨宮まみ
ライター。『女子をこじらせて』(ポット出版)で書籍デビュー。以後、エッセ イを中心にカルチャー系の分野でも執筆。近著に『東京を生きる』(大和書 房)、『自信のない部屋へようこそ』(ワニブックス)がある。