「風と共に去りぬ」 #02

「しかし、きみは気の毒なことに、本当の意味で結婚したことはないだろう。だったら、どうして分かる? 言わせてもらえば、きみは運が悪かったんだよーー一度目は腹いせ、二度目は金目当ての結婚だろう。これまで、楽しむために結婚しようと思ったことはないのか?」

説明不要の名作、「風と共に去りぬ」。しかし、「海外文学の名作」「全5巻」などのプレッシャーに負けて未読の方も多いのでは。実は私もその一人で、なかなか手が伸びなかったのだが、読み始めるともう、朝ドラを観るような感覚で毎日グイグイ読んでしまった。少しも難しくなく、文学的で高尚というわけでもなく、ただ南北戦争前後の人びとの生活と人生が描かれている。激しく時代が移りゆく中での日常のリアリティ、人の考え方の変化を描いた作品なのだ。

その中で特に有名なのは、スカーレット・オハラとレット・バトラーだろう。冒頭にひいたセリフは、レットがスカーレットに結婚を申し込む際のセリフである。スカーレットとレットは、豪気で、良識なんかどうでもいいというようなところが少し似ていて、非常に釣り合いの取れた組み合わせに見える。会話の駆け引きも絶妙で、こんな恋愛ができたら最高に楽しいだろうなと思わせられる。「自分には結婚は向かない」と言い、独身を貫いてきたレットが、「結婚でしか手に入らない女性がいたら、結婚する」と言い、求婚したのがスカーレットだった。

この後に続くレットの情熱的な口説きぶり、それにほだされ、女に慣れた男の手慣れた激しいキスを受けて頭がクラクラしながらも、レットに負けまいと虚勢を張るスカーレットの姿も、わかりやすすぎて、憎たらしいけどかわいらしい。

 結婚といえば、「責任」とか「けじめ」とか「家と家との結びつき」とか、そうした重々しい言葉で語られがちだが、「楽しむための結婚」とは! レット・バトラーという男は、なんということを言ってくれるのだろう。5巻を読み終える頃には、恋愛とはいったい何なのか、生きていく上で絶対に守らなければならないことは何なのか、愛情を壊さずに続けていくにはどうしたらいいのか、価値観の混乱する中で、何を捨て、何を守って生きていけばいいのか……。そうした現代にも通じるテーマがすべて出てくる。非常に現代的な作品で、何の違和感もなく読み進められるはずだ。

「風と共に去りぬ」(マーガレット・ミッチェル著/鴻巣友季子訳/全5巻/新潮文庫)

“雨宮まみ”

雨宮まみ

ライター。『女子をこじらせて』(ポット出版)で書籍デビュー。以後、エッセ イを中心にカルチャー系の分野でも執筆。近著に『東京を生きる』(大和書 房)、『自信のない部屋へようこそ』(ワニブックス)がある。

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