女性が直感する「時間」を描くSF映画、『メッセージ』


知らずにいればいるほど、驚きがあって心を揺さぶられる。『メッセージ』はそんな映画なので、書きにくくはあるものの、強めにプッシュしたいと思います。というのも、個人的に去年一番見たあと自分が変わったような気持ちになったSF映画。普段SFを見ない人にも、ぜひ見てほしいのです。インターネットで何も検索せずに!

ヒット中の『T2 トレインスポッティング』にも出てきますが、歳をとると時間がループするような瞬間がよく訪れます。ふとしたきっかけで昔のことがフラッシュバックしたり、その記憶のせいで行動が左右されたり。容赦なく一方向に流れる時間のなかにいても、自分の内側では時間が渦巻いたり、どこかで止まっていたり、過去が現在と重なったりしている。それは知恵や自信というポジティヴな面になることもあれば、後悔や躊躇、痛みとして重くのしかかることも多い。喪失感を抱えている人ならなおさらです。

『メッセージ』の主人公、ルイーズもそんな一人。でも彼女は突然地球にやってきた異星人とコンタクトを試みるうち、まったく違う視点に気づきはじめるのです。それはまるで憂鬱な雨の日に始まって、だんだん雲が晴れていくよう。とてもSF的な命題を取り上げながら、ルイーズの体験はひらめきを伴うエモーショナルなもので、自分が感じたことのある感情と響き合います。

テッド・チャンの原作の短編をこんな映像体験にしたことにびっくりしますが、異星人や宇宙船などプロダクション・デザインもこれまでのSFから離れ、シンプルで美しく、見どころいっぱい。先日取材したドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は禅や書道といった日本のデザインにも影響されている、と語っていました。シュプール7月号では他にもいろいろ聞いています。お楽しみに!


『メッセージ』
監督/ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演/エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー
5月19日、全国公開

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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