歳を重ねた女優の「演技力」や「人間味」だけじゃなく、女性としての魅力を映し取っている映画を観ると、うれしくなります。「歳をとったらこういう感じになりたい」というイメージを増やすのは大事ですよね! その意味で、ヨーロッパ映画はとても豊か。イザベル・ユペールはまた別格ですが、妻や母という役割だけじゃない、その女性像にしかない可愛らしさ、カッコよさをいろんな大女優が演じている。フランス映画『ルージュの手紙』では、カトリーヌ・ドヌーヴとカトリーヌ・フロ、二人のカトリーヌを見ているだけで楽しくなってきます。
二人が演じるのは継母ベアトリスと娘クレール。疎遠になっていたクレールの元に押しかけ、自分が捨てた男の顛末を知るベアトリス。ここでのやり取りなんて、悲しみや怒り、溜まりに溜まった複雑な感情を演じているのに、どこか可笑しくて、ベアトリスの可愛い憎めなさとクレールの真面目な優しさも溢れ出すのです。あのドヌーヴさまを「可愛い」なんて言うのは恐れ多いのですが、好物はステーキとポテトの肉食系、ハイヒールで小走りする姿も笑える。自由に生きてきたくせに、孤独になるのは怖い女性をチャーミングに演じています。
あと「うまいなあ」と思ったのは、ドヌーヴとフロが見せる「感情の合間」。たとえば、クレールの父の写真を見ながらしんみりしている時に、突然クレールの息子が帰ってきて、二人がそっくりなのに気づく。びっくりしたあと、「あら、まあ」と気を取り直すドヌーヴたちのおばちゃんぽい仕草に親しみが湧くとともに、演技の細やかさも感じました。
監督は前作『ヴィオレット ある作家の肖像』(2013)でも多層的な女性像を描いたマルタン・プロヴォ。『ヴィオレット』でもそうでしたが、彼の映画では衣装が多くを語ります。アニマル柄や宝石を身につけているベアトリスと、いつも同じトレンチコートのクレールの装いが、女性たちを表すひとつのストーリーになっています。
『ルージュの手紙』
監督/マルタン・プロヴォ
出演/カトリーヌ・フロ、カトリーヌ・ドヌーヴ、オリヴィエ・グルメ
12月9日、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。