来週、69分のドキュメンタリー映画の上映が始まります。ラベー・ドスキー監督による『ラジオ・コバニ』(2016)。コバニはIS(イスラム国)に占拠され、破壊されたトルコ国境近くのシリアの町。解放後町に戻った20歳の女性、ディロバンは友だちと手作りのラジオ局を立ち上げ、〈おはようコバニ〉という番組を始めます。
シリアでの戦争を扱った映画とはいえ、それはあくまで彼女の日常。ディロバンは場所を移動しながらスタジオを作り、音楽をかけ、生き延びた人々の声を放送しながら、家では母とともに台所に立ち、友だちに会いに出かけます。
ただ当然、故郷は瓦礫となり、人々は傷ついている。映画では瓦礫を片づける前にまず、そこに埋もれた遺体を回収する作業もそのまま映されます。シャベルカーで運ばれる人間の体の「部分」。普段報道番組では流れない、そんな異様な風景も彼らは毎日見ている。それどころか、親しい人が殺された記憶が重くのしかかっていることも、ディロバンや周りの人たちの口から語られます。
でも伝わってくるのは、彼女たちがそこで生きていこうとしていること。戦争のすぐ後に前を向こうとしている勇気、強さが貴く思えます。家族の死について初めて話す友人とじっと肩を抱き合うディロバン。新たな爆撃の情報を携帯でやり取りする若者たち。新しい生活のなか、スマホで恋人を探すディロバンの横顔を母親が見ています。シリアについて知りたくて観にいった映画で、女性たちの繋がりを深く感じました。
『ラジオ・コバニ』
監督/ラペー・ドスキー
出演/ディロバン・キコ
5月12日、アップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。