2018.10.03

ショボくても、カッコいい。『負け犬の美学』のマチュー・カソヴィッツ

© 2017 UNITÉ DE PRODUCTION
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私というより、友人がマチュー・カソヴィッツの熱烈なファンだったのです。それも『アメリ』(01)で演じた優しい彼氏像ではなく、『憎しみ』(95)に代表されるソリッドで硬派な監督として。当時の彼は作る映画も演じる役も、本人もカッコよくて、才気ほとばしるフランス映画界のスターでした。昨年『ハッピーエンド』や『ヴァレリアン』といった話題作にマチューが顔を出しているのを見て、その友だちのことを思い出していました。映画って作品よりもそのときどきの記憶を呼び起こすようなところがあります。

さて、そんなマチューがめちゃ弱の中年ボクサー、スティーブを演じるのが『負け犬の美学』。ボクサー役は男性の俳優なら一度は演じる役というイメージがあります。勝負の世界でのし上がる男を演じると、スターの階段も一段登る、みたいなイメージ。マイケル・B・ジョーダン主演の『クリード2』も来年早々公開ですね。でも個人的には、ボクシング映画では勝ち負けよりも、むしろ「なぜボクシングなのか」が見てみたい、とちょっと思っていました。

『負け犬の美学』はその点、頂点に立つ男ではなく、その下で負けつづけながらもボクシングに情熱を持つ仕事人を描いている。原題は『スパーリング』。スティーブはチャンピオンのスパーリング・パートナーとして、毎日毎日殴られているのです。それは家族のためでもあるけれど、彼自身が選んだ道でもある。その「生活」が描かれているのが新鮮でした。

そして、そんなスティーブのショボさがカッコよく見えてくるのは、やっぱりマチュー・カソヴィッツの力。彼が愛する娘役のビリー・ブレインも素晴らしいのですが、普段仕事や子育てに追われていても、試合となるとセクシーに装い、自分の男を応援する妻役のオリヴィア・メリラティにもぐっときました。友だちにはいまこのマチューがどう映るのか、聞いてみたいところです。

『負け犬の美学』
監督/サミュエル・ジョイ
出演/マチュー・カソヴィッツ、オリヴィア・メリラティ、ソレイマヌ・ムバイエ、ビリー・ブレイン
10月12日、シネマカリテほか全国順次ロードショー

10月12日(金)シネマカリテほか全国順次ロードショー

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。