違う世界に行けば、自分は変われる? 『アンダン 〜時を超える者〜』

実写映像をトレース/ペイントして、アニメーションにする「ロトスコープ」という手法。私はリチャード・リンクレーターの『ウェイキング・ライフ』(2001)で初めて見ました。動くものがずっとユラユラしているので元々トリッピーなうえ、リンクレーターが『ウェイキング・ライフ』で見せたように、日常の風景に夢や不思議なものが混ざってくる表現にぴったり。その後彼はフィリップ・K・ディック原作の『スキャナー・ダークリー』(2006)でもロトスコープを使いました。強力なドラッグに溺れて自分を見失っていくキアヌ・リーヴス、共演にロバート・ダウニー・Jr.――いま見ると超豪華なメンツのSFアニメです。

そして、新たにロトスコープで作られたのがオリジナル・シリーズ『アンダン』。これもサイケデリックなSFテイストのアニメなのですが、その一方で、リアルな女子ドラマでもあるのがいまっぽい。主演は『アリータ:バトル・エンジェル』(2019)のローサ・サラザール。彼女が演じる28歳のアルマは、普通の毎日を繰り返すのにうんざりしています。仕事もあるし恋人もいるけれど、このまま結婚して落ち着くのか、と思うとどんより憂鬱。逆に妹のベッカは結婚式を前にウキウキです。この対照的な姉妹、家族や恋人とアルマの関係が細やかに描写されるからこそ、異空間が入り込んでくる瞬間が刺激的。アルマは交通事故に遭い、時間を超える力を持ちはじめるのです。あるいは、それは事故で昏睡したアルマの夢なのか?

思うと、他にも『ロシアン・ドール:謎のタイムループ』や『The OA』、『マニアック』など、最近話題になった海外ドラマには哲学的サイエンス・フィクションに女性主人公の組み合わせが目立ちます。異様な世界で謎を解こうともがく彼女たちは、現実でもさまざまな問題を抱えている。うまく生きられない女性の葛藤が、世界を変え、自分を変えるというSF的表現に重ねられてるんですね。それが『アンダン』では、より身近で見慣れた場所で繰り広げられるのが面白い。アルマが抱える虚しさの理由は、父の死の謎を解く過程において明らかになっていきます。

クリエイターは『ボージャック・ホースマン』の製作陣。ちょっと難しく思えても、ストーリーテリングのうまさと、ちょいちょい挟まれる笑い、ファンタジックな映像で注意が逸れない。何より、アルマの内面の冒険に引き込まれていきます。「頑張る気持ちになれない自分」は、違う世界に行けば頑張れるようになるのか、幸せになれるのか。普段SFやアニメに縁がない人こそ、ぜひ。

Amazon Original『アンダン 〜時を超える者〜』
クリエイター/ラファエル・ボブ=ワクスバーグ、ケイト・パーディ
出演/ローサ・サラザール、アンジェリーク・カブラル
Amazon Prime Videoにて独占配信中

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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