最近、コツコツと見返している人の作品群があります。イギリスの脚本家/俳優のフィービー・ウォーラー・ブリッジ。大作としては、SWシリーズの『ハン・ソロ』(18)で反抗的な女性ドロイドL3-37を演じ、次の007新作への脚本参加でも話題になりました。いまイギリスから世界へ輸出される才能として、かなりバズっている存在です。
そのフィービーが手がけてきたドラマが、さすが面白いのです。まず見てほしいのが、製作/脚本/出演でブレイクした『フリーバッグ』(2016~)。ロンドンでひとり働き、性遍歴を重ねる都会の女性もの……と説明すると、『セックス・アンド・ザ・シティ』の後発のように聞こえますが、このコメディには皮肉な笑いと胸を抉る悲しみがあり、笑いながらも打ちのめされてしまうのです。家族関係や友情がメインだったシーズン1もよかったけれど、シーズン2で描かれる恋愛には、私までハートブロークンしてしまいました。相手役は『シャーロック』のモリアーティ役で有名なアンドリュー・スコット。
フィービーが脚本/ショウランナーを手がけた『キリング・イヴ』(2018)も、見はじめると止まらなくなるドラマシリーズです。大胆な暗殺者ヴィラネル(ジョディ・カマー)を、MI6所属のイヴ(サンドラ・オー)が追いかけるスパイもの。そんなスリリングな設定なのに、この女性主人公二人のセリフや行動がリアルでおかしく、彼女たちが身につける服や香水が巧妙にプロットに絡んでくるのもいい。イヴが突然のディナーに着ていくものがなく、店でドレスを選ぶシーンなんて最高でした。加えて、音楽のカッコよさ! パリのシーンの冒頭でアンナ・カリーナの歌声が流れたりするのです。
フィービー・ウォーラー・ブリッジが007新作に関わったことは、次々に問題が持ち上がるボンド・ムービーのポジティヴな要素として報道されました。監督が交代し、脚本が何度も書き直され、ダニエル・クレイグの怪我で一時撮影が中断となり、心配されたところで、フィービー投入。インタビューによると、彼女の役割は主に脚本のセリフをブラッシュアップし、「ジェンダー・ポリティックス」に注意を払い、レア・セドゥら女性キャストが「演じたい!」と思えるような役柄にすることだとか。これは期待大。ちょうど続々噂も出てきていますが、2020年には新しい感性のボンド・ウィメンが見られるかもしれません。
『フリーバッグ』
クリエイター/フィービー・ウォーラー・ブリッジ
出演/フィービー・ウォーラー・ブリッジ、シアン・クリフォード、オリヴィア・コールマン
Amazon Prime Videoにて配信中
『キリング・イヴ』
ショウランナー/フィービー・ウォーラー・ブリッジ
出演/サンドラ・オー、ジョディ・カマー、フィオナ・ショウ
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。