このスカヨハとアダムが見たかった! ある愛の物語『マリッジ・ストーリー』



『マリッジ・ストーリー』は例えるなら、アデルの傷心ソングのような映画。感傷的で美しく、コミカルなところも痛いところもあって、終わったあとにはまた一つひとつの瞬間を思い返したくなる。アデルが自分の恋を元に曲を書くように、ノア・バームバック監督も女優、ジェニファー・ジェイソン・リーとの離婚を元にこれを描いています。実際、なぜタイトルを『ディボース・ストーリー』にしなかったのだろう、と思うほど、離婚が成立するまでを細やかに綴っていますが、幸せな時間もそれが終わっていく時間も含めて、バームバックのなかでは「結婚」の物語なのかもしれない。ちょっと監督に聞いてみたいところです。

演じるのはスカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバー。この二人だと、それぞれに才能と魅力とエゴがあるからこそ、愛しあい、尊敬しあっていてもぶつかってしまうカップルに説得力があります。純粋に二人の演技だけで見ていられるほど。子どもの親権を争う段になると途端にアダム・ドライバーが話の中心になるのは男性目線かもしれないけれど、ある意味、これは男性が「自分が見ていなかったもの」に気づく話でもある。だからこそ、冒頭はモノクロ映画の女優のような、あまりに美しいスカーレットの姿から始まるのかもしれません。「男が見ていた理想の女性像」として。いまや監督やプロデューサーも務めるジェニファー・ジェイソン・リーから語るとどんな物語になるのだろう、と思ったりもしました。

なんにせよ、NYとLAを行き来する街の空気や音楽を含め、しっとり浸りたくなる映画なので、機会がある人は映画館で見てほしい。私は東京国際映画祭で堪能しました。ちなみにいま公開中のマーティン・スコセッシの『アイリッシュマン』も、絶対に映画館で味わいたい3時間半。このところNetflix映画が一部劇場公開されているのは、大いに歓迎したい動向です。

 Netflix映画『マリッジ・ストーリー』
監督/ノア・バームバック
主演/スカーレット・ヨハンソン、アダム・ドライバー
12月6日、Netflixで全世界独占配信開始
11月29日、一部劇場にて公開

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。