アリ・アスター監督に聞いた! 『ミッドサマー』はフェミニスト映画?

提供:ファントム・フィルム/TCエンタテインメント 配給:ファントム・フィルム
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長編デビュー作『ヘレディタリー/継承』(18)、そして2月に公開される『ミッドサマー』と、ホラーの文脈でいまいちばん異彩を放つ監督がアリ・アスターだ。ストーリーも、その映像表現も強烈。そしてどんなに奇妙なこと、嫌なことが起きても、「見て見ぬふりをする」人間の心理が描かれることで、見るほうにも絶妙にイヤ~な感じや不安が募っていく。『ミッドサマー』ではアメリカ人男女がスウェーデンの夏至祭を訪ね、異様な体験をする。輝く光とカラフルな花々の怖さ! 脚本は監督自身が失恋したときに、ヨーロッパの伝統や儀式を大量にリサーチしながら書いたもの。果たしてこんな映画を作った本人は……チェックシャツを着た、知的で優しそうな青年でした。

●これはホラー映画というよりも失恋映画ですか? ある意味、「フェミニスト・ドラッグ・ムービー」とも言えると思うんですが。

「ホラー・ムービーだとは思わないな。実際にはおとぎ話だと思う。僕としては失恋のストーリーを表現主義的に語ろうとしたんだけど。まあフェミニスト的かどうか、僕は言える立場にない。とはいえ、そう見てもらえるのは嬉しいね。実際、ドラッグもたくさん出てくるし。脚本を書くときにはカテゴリーは考えてないんだ。ダーク・コメディにしよう、っていうのは意識的だったけど」

●あなた自身の失恋を反映する主人公ダニーは、書いているときから女性だった?

「うん、最初からそれがしっくりきた。ダニーは僕自身のいろんなものを反映してて、僕の代理なんだけど……そのために女性主人公が必要だったことが何を意味してるかは、わからない(笑)。ただずっと、この物語を動かすのは女性じゃないといけないと感じてたんだ。”祭りの女王”のシーンがクライマックスになるのもわかってたから」

●ただ明らかに、アメリカ人男性の集団と、スウェーデンの村の女性中心の共同体が対比されてますよね? それはこの物語に女性的なエナジーが必要だったのか、異教の祭りがあったからなのか。

「もちろんリサーチしたことも反映されてる。そうした共同体が、いまの家父長制社会に対して、女家長制社会だったことは確かだから。調べると、そこが不明瞭な共同体もあるんだ。ジェンダーの役割が交換可能で、でも女性のほうが権力を持っていて。まあ僕自身、普通に男性のエナジーより女性のエナジーのほうが好きなんだけどね(笑)。大抵女の人のほうが感じいいし」

●男女の対比で言うと、男性のグループは競争的で、女性たちはお互いを支えている。傷ついたダニーに対して男たちはひどく冷たいのに、スウェーデンの村の女たちは一緒に泣いてくれますよね。

「明らかに対比したように感じられるかもしれないけど、脚本を書いてるときはそうでもなかったんだ。本能的に決めたことで。僕が普段男性に感じてることが出てる。特にこの脚本は他のどれよりも本能的なんだ。書くのもすごく速かったし。なんとか自分の失恋から立ち直ろうとしつつ……一つひとつにどんな意味があるのかはわからない。フェミニスト的な傾向についても、僕自身自問して、どういうことなのか考えてるところなんだ」

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「でも確かに、村の女性はみんなダニーのそばにいて、支えてる。アメリカ人の誰もできなかったことだよね。そこは重要なんだ。孤独な女性がいて、実存的な危機に直面して、何の支えもない。でも彼女は“共感”が共通言語である場所を見つけるんだ。そこではみんなお互いを思いやっていて、繋がっていて。ダニーは切実に求めているものを与えられるけど、もちろんそのコミュニティには醜いところもあり、ただそれが表立っては見過ごされてる。映画自体のトーンも醜さを直視しようとしない。映画はダニーの体験と結びついてて、“家族を失うこと”から、“家族を獲得すること”への道のりだから。だから感情的にはダニーに寄り添ってるんだけど、他にもいろんなことが起きてるんだ」

●ダニーを演じるフローレンス・ピューにとっては難役だったと思うんですが。

「フローレンスには才能と、自信もある。ある意味、彼女を配役するのはリスクだったんだよ。フローレンスはこれまで、強くて決断力のあるキャラクターを演じてきただろう? でもダニーは傷ついていて、不安で、優柔不断で。まったく違う。ただフローレンスにはできる、って直感が僕にはあった。彼女の演技はそれをさらに超えたね。現場でフローレンスの内面的な強さを見るのはすごい体験だった。どのシーンにもそれがにじみでてると思う」

●現場ではプレッシャーがあったんですか? A24のポッドキャストではあなた自身、「隅に行って泣きたくなった」って言ってましたよね。

「正確に言うと、僕は『隅に行って泣いた』んだ(笑)。撮影ってすごく大変なんだよ! 特に立て続けだと。『ヘレディタリー』と『ミッドサマー』は休みなしで撮ったから。『ミッドサマー』は撮影期間が短かいうえに、昼間しか撮れなくて。普通は撮影が始まってから3週間くらいで疲れて悪夢を見るんだけど(笑)、今回はすぐに自分の頭が明晰さを欠いてるのに気づいた。だからほんと、この映画が存在してること自体に感謝してるんだ」

●あなたの映画はいつも家族についてです。ポン・ジュノ監督の『パラサイト』(19)では、「家族の絆って怖い」と思ったんですね。あなたの映画でも家族はまるで呪いのようです。

「『パラサイト』はここ数年で一番好きな映画。実際、ポン・ジュノの映画は全部好きなんだ! そのテーマだったら、『母なる証明』(09)もそうだよね。家族は美しいものにも、ひどく陰湿なものにもなりえるんだよ。帰れる場所であると同時に、罠にもなる」

●あと『ヘレディタリー』でも『ミッドサマー』でも、儀式が描かれますね。

「儀式には美しさがあると思う。僕は儀式や伝統にずっと惹かれていて。『ミッドサマー』は、人がいかに伝統によってものが見えなくなるか、っていう映画でもあるんだ。どの社会でも伝統はあまりにも普通で、生活の一部になってて、それに疑問を持たないよう教え込まれる。たとえそれが奇妙で恐ろしいことでも。最近は神話にも興味があるんだ。神話って、ものすごく豊かなアーカイブだろう? 僕はまだそこを十分に探れてない。僕のストーリーテリングが行き詰まるのは、僕が知らないことのせいだと思うんだ。それもあって、僕は神話や儀式に魅了されてる。これまで以上にね」


『ミッドサマー』
監督・脚本/アリ・アスター
出演/フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィル・ポーター
2020年2月21日、TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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