地味だけど、見逃せない! フィンランド映画『ラスト・ディール』が面白い

© Mamocita 2018
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前作『こころに剣士を』(15)も好きだった、クラウス・ハロ監督の新作『ラスト・ディール』。ヘルシンキの旧市街で画廊を営む老人が、オークションで一枚の肖像画を見つけ、人生最後の大きな取引を目論むストーリーです。一目見て「これだ」と思った絵は、果たしてロシアの巨匠レーピンのものなのか。彼はそれを手に入れられるのか。そこに老人の孫が関わってくることで、家族を取るか、それとも一生をかけた仕事を取るのか、という「男性の生き方」も描かれます。

ただ、背景にあるのは様変わりした美術界。ドキュメンタリー『アートのお値段』(18)では、モダン・アートの市場が操作され、マネーゲームとなった業界が映されていましたが、この映画はその裏側にあるようにも思いました。モダン・アートではなく、時代を背景に画家たちが描いてきた伝統的な絵画では、その歴史を研究する専門家や、現物を見て判断する「目利き」が価値を守ってきた。いまその人たちがインターネットやジェントリフィケーションに追いやられ、消えようとしているのかも、と。

だからこそ、老人の頑固さが生きてきます。名画をもう一度表舞台に出す最後の取引は、彼自身のエゴであり、変わっていく世界への反抗でもある。と同時に、家族への彼なりの贖罪でもあるのです。学校に馴染めない問題児の孫が、アートの広い世界を知っていくプロセスもいい。彼を通じて「未来」へつなげたところに、監督と脚本家の希望が見えます。「絵の正体がわかる」サスペンスには興奮! ちょっと地味だけれど、見逃したくない一作です。

『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』
監督/クラウス・ハロ
脚本/アナ・ヘイナマー
出演/ヘイッキ・ノウシアイネン、ピルヨ・ロンカ、アモス・ブロテルス
2月28日、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか公開

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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