オンライン・マガジン〈ヴァルチャー〉の記事タイトル「パンデミック映画58選」を見て、「おおっ」となりました。この時期にこれをビンジウォッチするなんてタフだな、と。でも、リストをじっくり見て納得。シリアスな感染ものからエモな家族もの、韓国映画やインド映画まで、トーンもテーマも多様で面白い。思わず自分も、いま配信で人気急上昇中の『コンテイジョン』(2011)と、アートなゾンビ・ムービー『飢えた侵略者』(2017)を続けて観てしまいました。
そう、パンデミック映画の多くはゾンビ・ムービー。もうすぐ劇場でも二作品が公開されます。上記のリストにも載っている『キュアード』は、かなり政治的。人を凶暴にする感染症に対して治療薬ができ、いったんは落ち着いたアイルランドが舞台。でもまだ治らない人々は監禁され、治った元感染者=キュアードはPTSDに苦しんでいます。たとえ普通の生活に戻ろうとしても、キュアードは差別される。人々は分断され、不満を抱え、再び恐怖が蔓延し……と、現代的なメタファーでいっぱい。エレン・ペイジの母親役が新鮮です。
一方、ジム・ジャームッシュ監督作『デッド・ドント・ダイ』はもっとユルく、だんだんゾンビに侵されるスモールタウンを描いています。アダム・ドライバーやティルダ・スウィントンら、スターのとぼけた演技だけでも楽しい。ただ、目を引くのはレトロなゾンビ。動きが速くて凶暴な最近のゾンビと違って、キャラが立っている。ジャームッシュは『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(68)の原点に戻ろうとしています。生前執着していたものに群がる彼らは、消費主義で魂を失った人々でもあるのです。
パンデミック映画をいま観てちょっと思ったのは、どんなにリアルでも怖くても、ある意味不安の解毒剤になるのかも、ということ。話に流れと結末があるので、「この先どうなるのかわからない」という曖昧さからいったん抜け出せるし、こんなに何度もシュミレーションされてきたんだな、と思えるから。とはいえ、外出後の手洗いは忘れずに。『コンテイジョン』でいちばんゾッとしたのは、ケイト・ウィンスレットの「人は一日に2千~3千回顔を触るのよ」というセリフだったので!
『キュアード』
監督・脚本/デイヴィッド・フレイン
出演/エレン・ペイジ、サム・キーリー
3月20日、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
『デッド・ドント・ダイ』
監督・脚本/ジム・ジャームッシュ
出演/ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、ティルダ・スウィントン、クロエ・セヴィニー
4月3日、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。