スパイク・リーからの強烈なメッセージ、『ザ・ファイブ・ブラッズ』とブラック・ライヴズ・マター

Netflix映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』独占配信中
Netflix映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』独占配信中

人種差別に抗議するプロテストがミネアポリスからアメリカ全土へ、世界へと広がっている最中に、スパイク・リーの最新作『ザ・ファイブ・ブラッズ』がNetflixからリリースされました。これがまさにいま起きていることと同じ激しさ、怒りを持つ一作。もちろん撮影は昨年前半に終わっていたはずですが、トランプのアメリカや若い世代に向けて語られているところもあり、前作『ブラック・クランズマン』(2018)よりずっと生々しくてヘヴィ。強烈なパンチを浴びた気持ちになりました。

とはいえ最初は昔ともに戦った、老いた黒人ベトナム帰還兵のリユニオンとして始まります。彼らは戦死したリーダーの遺体を見つけるため元の戦場にやってきたのです。ふむ、リチャード・リンクレーター監督作『30年後の同窓会』(2017)のように、彼らが抱えてきた傷を清算するノスタルジックな話なのかな……と思っていたら、さすがはスパイク・リー・ジョイント、過去では終わらない。なぜなら老人たちは遺体と同時に、隠した金塊も見つけようとしているから。そのギラギラした欲によって再び血みどろの戦闘が始まります。『地獄の黙示録』(1979)へのオマージュに見えていたのが、どんどん戦争映画そのものになっていく。

彼らが背負った過去、そして黒人の歴史が欧米の侵略史とぶつかり、子どもの世代にまで大きく影響しているのもつらい。とはいえ若者たちに希望が託されているのは、スパイク・リー自身がブラック・ライヴズ・マターを含む若者の行動に向けている視線かもしれません。物語のヒーローではないけれど、渾身の演技を見せるのがデルロイ・リンドー。記憶の中で理想化された若きリーダーをチャドウィック・ボーズマンが演じています。苛烈な社会批判でありながら、この監督らしいエンターテイメントにもなっていて、この公開時期によってさらにパワーアップしたのでは。

ただ現在の状況をもっと直接的に知りたいなら、Netflixの『13thー憲法修正第13条ー』(2016)がお勧め。フルバージョンがYoutubeで一般公開されていて、日本語字幕設定にもできます。ブラック・ライヴズ・マターが警察に焦点を当てている理由と、彼らが抗議する差別がなぜ「システミック(制度的)」と呼ばれるのか、その背景がわかるドキュメンタリー。アンジェラ・デイヴィスら、公民権運動時から支柱となってきた活動家の姿を見られるのもいい。ブラック・ライヴズ・マターを始めたのが三人の黒人女性であることも思い出します。



『ザ・ファイブ・ブラッズ』
監督/スパイク・リー
出演/デルロイ・リンドー、ジョナサン・メジャース、チャドウィック・ボーズマン、メラニー・ティエリー
Netflixにて独占配信中


『13thー憲法修正第13条ー』
監督・脚本/エイヴァ・デュヴァーネイ

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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