スイーツも、これからは「多様性」が鍵。 『ノッティングヒルの洋菓子店』

© FEMME FILMS 2019

Netflixオリジナル映画『オールド・ガード』を観て以来、ずっと「バクラヴァが食べたい!」という気持ちが止まりません。ナッツを挟んだ薄い生地の層をシロップに浸した、中東や地中海のペストリー菓子。シャーリーズ・セロンが一口食べて、それに何が入っているか当てるシーンがあるのです。私がモロッコに行ったときにも山ほど種類があったのを覚えています。そして『ノッティングヒルの洋菓子店』にも出てきたバクラヴァ、ますます本格的においしいのを探したくなりました。

というのもこの映画、タイトルは「洋菓子店」となっていても、実は異文化のお菓子が次々登場するのです。ストーリーは、ノッティングヒルでの開店直前にパティシエのサラが亡くなり、その悲しみを越えて、サラの娘、サラの母親、それにサラの親友という三世代の女性がパティスリー「ラブ・サラ」を切り盛りする――というもの。彼女たちは最初、二つ星レストランのパティシエを雇って美しいフランス菓子を店に出すのですが、なかなか売れず、夢が潰えそうになる。でも、ロンドンに住む移民の人々の「故郷のお菓子」を再現するというアイデアが、停滞した空気をガラッと変えていきます。

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ロンドンのような多民族、多文化の街にぴったりのそのアイデアは、実際いろんな焼き菓子が作られる過程を見るだけで楽しくなってくる。映画に協力したロンドンのデリ「オットレンギ」は、中東のテイストを取り入れた料理やスイーツで人気だとか。フレッシュで、想像力をかき立てるんですよね。エキゾチックな一品として、ある日本のスイーツもフィーチャーされている。よく考えると、「洋菓子」「和菓子」なんていう枠を超えて、もっとグローバルなのがおやつ。レストランや料理がフィーチャーされた映画はたくさんあっても、本作は「多様性」が鍵になっているところがいい! 新たな可能性は、そこにあるはずです。

『ノッティングヒルの洋菓子店』
監督/エリザ・シュローダー
出演/セリア・イムリー、シャノン・ターベット、シェリー・コンほか
12月4日、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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