サッカーが始まるワクワクと、シンクロしました。『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』

(c) AB Svensk Filmindustri, All rights reserved
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スウェーデンの63歳主婦が主人公の『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』。そう聞くと、単調な生活に思いもよらぬ訪れがある北欧映画、例えば『幸せなひとりぼっち』(2016)を連想する人もいるでしょう。確かに、その印象は正しい。これも歳を取ってから人生が一変するお話ですから。でもあんまり誰も言わないかもしれませんが、『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』はれっきとしたサッカー映画でもあるのです。

というのも夫の浮気に気づき、彼女が家を飛びだして見つけるのが、ユースクラブの管理人兼サッカーコーチの仕事。もちろんコーチの経験なんてゼロ。でもブリット=マリーは自分にできることから始め、一から学び、だんだんと周りの協力を得ていきます。バラバラだった人々がチームになる――それはどんなアマチュア・レベルでも、クラブを強くする一番の要素。そしてこの競技のシンプルで、圧倒的に心を動かす魅力も、本作では「生きること」と重ねて描かれています。思わず、「そうそう!」とうなずいてしまう説得力。サッカーの一瞬に込められた情熱と喜びは、止まっていた人生も生き返らせるのです。

ちょうど世界でも日本でも再開した試合を見はじめたところだったので、このメッセージには撃ち抜かれてしまいました。ただハートウォーミングなだけでなく、移民の子どもたちの描写やブリット=マリーが感じた痛み、それにもちろん「サッカーはパスが大事」など、現実のディテールがていねいに描かれているのもいい。ブリット=マリーを演じるのは重鎮ペルニラ・アウグスト。彼女の娘アルバ・アウグストも、『リンドグレーン』(2019)などいま大注目の俳優です。監督のツヴァ・ノヴォトニーはなんと『ボルグ/マッケンロー』(2017)でボルグのパートナーを演じていた人。あれも抜群に面白いスポーツ映画だった。本作では細やかな演出に彼女の監督としての才能が光っています。

『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』
監督・共同脚本/ツヴァ・ノヴォトニー
出演/ペルニラ・アウグスト、ペーター・ハーバー、アンデシュ・モッスリング、マーリン・レヴァノン
7月17日、新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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