日本にはあまり伝わっていませんが、ここ数年Netflixで話題になったロマンティック・コメディがあります。それが韓国系アメリカ人の高校生、ララ・ジーンを主人公とする『好きだった君へ』シリーズ。やはり韓国系アメリカ人のジェニー・ハンが書いたYA小説三部作が原作になっています。
人気爆発のきっかけは『好きだった君へのラブレター』(2018)。ティーン・コメディの主人公がアジア人なのが新鮮で、内容もルックも超キュート。これまで好きだった男の子たちに未発送のラブレターを書き溜め、ストレスが溜まるとお菓子作りに没頭するララ・ジーンを、ラナ・コンドルが魅力的に演じました。ちょっと頭でっかちで妄想系のキャラクターに大勢が共感したんですよね。しかも、相手役ピーターを演じたノア・センティネオとの相性が抜群。ピーターは最初、元恋人の気を引くためにララ・ジーンと付き合っているふりをするのですが、だんだん彼女に惹かれていきます。配信されるや否や、ノア・センティネオは「今年のボーイフレンド」的な扱いとなり、ティモシー・シャラメと比較されたほど。ラナもノアも、すぐに大作映画にキャスティングされました。
とはいえ、恋の始まりから、三角関係へと発展した第二作『好きだった君へ:P.S. まだ大好きです』(2020)ではその相性がイマイチ。ストーリーのせいもありますが、少し不満なのは、せっかく第一作がスーザン・ジョンソン監督でヒットしたのに、第二作以降男性監督にスイッチされたことです。あの『トワイライト』シリーズにせよ、女性監督の映画が大ヒットすると、それ以降の続編で監督が変わってしまうことがハリウッドではなぜか多い。すると人気は保てても、最初にあったエッジがなくなってしまう。もろもろ事情はあっても、そもそも女性オーディエンスを惹きつけた理由をきちんと理解・分析してほしいと思います。
そして、2月にとうとうリリースされたのが完結編『好きだった君へ:これからもずっと大好き』。ここではララ・ジーンとピーターのラブラブなケミストリーも復活。ただ、ララ・ジーンが外へ目を向けはじめることが二人の新たな試練となります。冒頭でララ・ジーンは母の故郷、韓国を訪れる。このへん、「いまのアメリカのティーンにとってソウルは憧れの都市なんだな」と感じさせるとともに、大学進学という一大転機において、これまでとは違う世界が開かれる予兆に。必然的に、物語もララ・ジーンの内面の成長にフォーカスが当てられる。ややもどかしくビタースウィートでも、誠実な結末になった気がします。しかも、最後にはこれまでの振り返りも。私はピーターが、最初のデートでララ・ジーンが着ていたブルーのジャケットを思い出したところにぐっときました。確かにあの場面は、記憶に残る可愛さ! まだ未見なら、それが出てくる第一作『好きだった君へのラブレター』だけでもぜひ見てほしい。このシリーズが、Netflixがここ数年推してきた「ロマコメ・リバイバル」の代表作となった理由がわかるはずです。
『好きだった君へ:これからもずっと大好き』
監督/マイケル・フィナモリ
出演/ラナ・コンドル、ノア・センティネオ
Netflixにて独占配信中
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。