女がボールを蹴れば、世界は変わる! 『クイーンズ・オブ・フィールド』が痛快な理由

© 2019 ADNP – KISSFILMS – GAUMONT – TF1 FILMS PRODUCTION – 14EME ART PRODUCTION – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE
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伝統あるフランス北部のサッカークラブが窮地に陥り、男たちの代わりに町の女たちが試合に出場する。そんなコメディ映画『クイーンズ・オブ・フィールド』を思いのほか楽しめたのは、キム・ホンビのエッセイ集『女の答えはピッチにある』(白水社)を読んでいたせいだと思います。男たちが出場停止になり、妻や娘たちがいきなりサッカーをすることになって、次々問題とぶつかりながら、仲間と近づき、チームとして周りの人々も動かしていく――そんな展開を見ながら感じていたのは、あの本でいきいきと描かれていた感情だったから。自分では「できない」と思い込んでいたことが実現したとき、女性たちはショックと喜びを経験し、サッカーによって心持ちも生活も一変させてしまうのです。

『女の答えはピッチにある』で、キム・ホンビは急に飛び込んだアマチュアサッカー生活で見たこと、聞いたこと、感じたことをユーモラスに綴っています。なかでも私が忘れられないのは、40代でサッカーを始めた食堂で働く女性のエピソード。彼女は練習のあと店にやってきた女子サッカーチームを見て以来、自分もやりたくてしょうがなくなる。家族に反対されながらも始めると、そこには「サッカーをする女」という新たな矜持が生まれるのです。嫌な客が来ても、「おいオマエら、アタシをただの、そんじょそこらの食堂のオバチャンだと思われたら困るよ、アタシゃ実は、サッカーしてる女なんだからね!」と、心でつぶやいて胸を張れる。それが痛快で、拍手喝采したくなるのです。

『クイーンズ・オブ・フィールド』でも、そうやってどんどん変わっていく妻たちに対して、戸惑ったり、練習の邪魔までしたりする夫たちが出てきます。それはたぶん、当たり前だと思っていたことが変化して、ついていけなくなるから。でも、変化をくいとめようとしても何もポジティブなものは生まれないんですよね。サッカーの試合には当然勝負があるけれど、この映画の結末は男女の「ウィンウィン」を目指していて、嬉しくなりました。私も本当はやりたいのに、無意識のうちに「無理だ」と思っていることがないかどうか、チェックしてみたいと思います。何歳になっても、自分を変えるために。


『クイーンズ・オブ・フィールド』
監督/モハメド・ハムディ
出演/カド・メラッド、セリーヌ・サレット
3月19日、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて公開

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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