M:MARIUS
S:SPUR
S:マリウスさん! 6月に行われたヨーロッパ議会選挙、極右政党やナショナリスト政党が議席を大幅に増やすという結果になりましたね。
M:ああ、本当に(デスクに突っ伏すマリウスさん)。フランスでもマリーヌ・ル・ペン氏率いる極右政党がダントツ1位ですからね。以前もお話ししたように、僕自身もドイツと日本のミックスだし、大学の友達も複雑な人種的背景を持った人たちが多いんです。だから排他的な思想を持つ極右政党が議席を伸ばしたことに、不安を感じている人は多いです。
S:移民政策や環境政策への不満に加え、ウクライナとロシアの戦争の影響による物価の高騰が「自国第一主義」につながっていることを以前話されていましたが、民主主義の基本でもある「選挙」によって、バックグラウンドの異なる他者の人権を認めない政党が躍進するとは皮肉なことです。
M:そうなんです。それで今回「民主主義」をテーマに取り上げたいと思いました。読者の皆さんも学校で習ったことがあると思いますけれど、日本も民主主義国家ですよね。民主主義というのは、簡単にいえば、国民の意志をもとに、国の政策を行うというシステムのことです。
大事なのは、近代国家では民主主義と人権の尊重は、つねにセットになっているということです。というのも民主主義は、市民が自由に自分の意見を言える社会であることが大前提。だから、人権が保障されていなければ、民主主義は成立しないんですよ。
S:確かにそうですね。
M:「いや、多数決で決まったんだからほかの人もそれに従うべきだ」という声もありますが、民主主義はただの多数決ではないんです。多数決で何かが決まったとしても、マイノリティの声を無視せず、拾いあげるのが民主主義であって、多数派が少数派の主権を脅かすようなことがあってはならないんですね。
S:ということは、あまりに排他的な極右政権は、民主主義と相反すると。
M:そう思います。でも、かつてドイツでは、選挙によってヒトラーのナチ党(※国民社会主義ドイツ労働者党)が政権を獲得したという苦い歴史があります。選挙という民主主義のプロセスによって独裁国家が誕生してしまったわけで、民主主義というのは、実は欠点があるということを僕たちは理解しておかないといけないと思います。
S:民主主義国家だから安心……というわけではないんですね。
M:とくに近年、気をつけなければいけないのは、ソーシャルメディアの情報です。XやTikTok上の内容に影響されやすい若者がおり、偽の画像や耳ざわりのいい言葉にだまされて流されてしまう人はたくさんいます。SNSの登場で、民主主義はより脆弱で、傷つきやすくなってしまいました。最近では、SNS上から得たパーソナルな情報をデータ化して、より個別に洗脳することも可能になっているんですよ。
S:えっ、どういうことですか??
M:たとえばこの人はシングルマザーで年収がいくらとわかっていたら、「この政党はシングルマザーに給付金を出します」というフェイクニュースが有効なわけです。お酒が好きな人に「あの政治家は酒税を上げようとしている」という偽情報を流すこともできる。
S:怖い……簡単に情報に操られてしまうかも。情報を見極めるメディアリテラシー教育を徹底させる必要がありますね。
M:そうですね。僕が利用している「Ground News」というサイトでは、ひとつのニュースが各媒体でどう扱われているのか、中道の報道、右寄りの報道、左寄りの報道と、グラデーションで読めるんです。その報道姿勢を分ける基準は、文章で使われている語彙などをもとにAIが判断しているので、そこを疑問視する人もいるけれど、ひとつのニュースをいろんな角度から見られるので参考にはなります。
S:客観的に情報と向き合えますね!
M:一方、デジタル社会が民主主義に及ぼすいい面もあります。その昔「政治」は一部の裕福な人たちのものでしたけれど、今やデジタルの発達で地方にいても、多額の資金がなくても、誰でも自由に政治参加できるようになりました。より開かれた民主主義になったと思います。北ヨーロッパにエストニアという小国があるのはご存じですか。
S:バルト三国のひとつですね。
M:エストニアはデジタル先進国として知られていて、行政の手続きもほとんどオンラインでできるのですが、たとえば僕が「こういう法律を作りたい」と思ったら、政治家に意見を送って、そのディスカッションにスマホから簡単に参加できたりするんです。
しかも内閣もデジタル化されています。たとえば内閣のメンバーは、オンライン上でその議題に賛成か、反対かチェックして、反対意見がなければ、法案は通るというシステムになっています。人口が約130万人と少なくて、多文化ではないからできるところもあると思うんですけれど、EUで唯一デジタル・デモクラシーが成功している国なんじゃないかな。
S:一歩先の民主主義という感じですね。日本はどうでしょうか。日本の民主主義は健全に機能していると思いますか?
M:どうだろう。たとえば、「報道の自由度ランキング」を見ると世界で70位(2024年度)です。これでは大事な真実が市民に届いているとは思えません。男女格差を見る「ジェンダー・ギャップ指数」も世界で118位(2024年度)。女性の人権が尊重されていない社会が、果たして民主的と言えるのか。さらに民主主義では、いろいろな人がいろいろな意見を出し合って話し合うことが大事で、結論を出すのに時間がかかります。しかし、日本に限らず、多忙な生活の中で政治と向き合う時間やエネルギーは不足しがちで、民主主義の健全な発展は困難に面しています。多くの人々が責任ある市民として民主主義に参加するために、何ができるか考えることが重要となりますね。
S:もしかして、かなりの危険水域なのかも。日本もこれから大きな選挙があるので、ぜひ参考にしたいと思います!