M:MARIUS
S:SPUR
S:大学卒業後、世界中を飛び回っているマリウスさんですが、9月はニューヨークにいらしたんですね?
M:ちょうどファッションウィークで街全体がにぎわっていましたね。僕が見たのは、教会を会場にしたショーだったんですけれど、芸術的な要素が強く、アート作品みたいな服で。オートクチュールの世界とはまた別次元で、すごく刺激的でした。
それから今回はブロードウェイで、『グレート・ギャツビー』のミュージカルを観て、ものすごく感動して。高校のときに原作の小説は読んでいたけれど、この年齢になって、改めてわかることもありました。
S:20世紀のアメリカを代表する作家F・スコット・フィッツジェラルドの作品ですね。L・ディカプリオ主演の映画も観ました! 禁酒法の時代のアメリカが舞台で、密造酒を売って財を成した成り上がりのギャツビーと、身分違いから破局した、かつての恋人デイジーとの悲恋が描かれています。
M:デイジーは、今は人妻となって対岸に住んでいて、そんな彼女を思いながら、ギャツビーは毎夜、ド派手なパーティを繰り広げる。この中でギャツビーが対岸に見える緑の灯火を見つめるというシーンが何度か出てくるんですけれど、この光はいろいろなものを象徴しているんです。
届きそうで届かない夢だったり、大金持ちになっても手に入らない昔の恋人だったり。結局、アメリカンドリームをかなえても彼は幸せになれなかった。そういう虚しさとか、残酷な現実が見えて苦しくなりました。
S:今月のテーマでもある、なぜ働くのか、何のためにお金を稼ぐのかという普遍的な問いにもつながりますね。
M:まさにそうで、今の時代は「WHY」っていうことがとても大事だと思うんです。僕たちの親世代は、人生の選択肢が今より少なかったから、大学を出て一流企業に入って、結婚して家を建てて……というレールに乗っていくことが当たり前だと思っていたかもしれないけれど、今の世代は選択肢がたくさんある分、それを選ぶ理由を探さないといけない。
ファッションもそうですよね。同じようなものはたくさんあるからこそ、「これを買いたい」と思うようなブランドのストーリー性だったり、デザイナーの世界観が必要になってくると思うんです。
S:なるほど、そうですね。
M:それを考えると、実は自分自身も焦りを感じるところがあります。この夏、日本に帰国したときに、いろいろな人に「次は何をやるんですか」「事務所に入るんですか」「芸能活動はどうするんですか」って聞かれまくったんですけれど(笑)、まだ自分の中で答えが出ていなくて。大きなビジョンはあるんです。それは誰かの手助けになるような仕事がしたいということ。でもその手段が政治なのか、アートなのか、それ以外なのか、はっきりしていないんです。
なので「今はこういうプロジェクトを抱えていて、当分は日本とドイツを行き来しながらやっていこうと思っていて」と説明すると、「それ、なんていう職業?」「大丈夫なの?」って聞かれて。日本はまだまだ生き方を型にはめたがる傾向が強くて、新しいことをやろうとしてるのに、全然勇気づけられないんですよ(笑)。
S:ありますね。欧米だと、「とりあえず旅に出て考えよう」みたいな若者も結構いるけれど、日本だとまさに「大丈夫?」って言われちゃいますから(笑)。
M:「子どもの頃からお医者さんになりたかった」とか、「パティシエになるのが夢でした」みたいな人もいるけれど、大半の人が、「なぜその仕事をしたいのか」という「WHY」の回答は、そんなに簡単に見つけられないと思うんですよね。
もちろんお金は働く上で、大きなモチベーションになります。たくさん稼ぎたい、お金持ちになりたいという人もいる。でも、ギャツビーのように、お金持ちになっても本当の幸せは手に入らないんじゃないかと思うんです。むしろ「もっともっと」と、無限ループのように上を目指して行くほど、大切なものは失われていく気がして。
S:ギャツビーのパーティには大勢の人が来ていたのに、お葬式にはほとんど人が来なかったというのがとても寂しかったです。
M:だからお金に振り回されて自分を見失うのはよくないけれど、一方で、今現在、金銭的に余裕がなくて、何でもいいから働かないといけないという人もいると思います。その場合は、働きながら「WHY」について考えていくのも一つの方法。答えが出たら転職してもいいし、とりあえずと思って就いた仕事が天職だと気づく場合もあるし。迷ったら、まずは動いてトライ&エラーを繰り返しながら、ゆっくり進んでいけばいい。日本の社会は一度レールをはずれた人に厳しいけれど、失敗してもまたやり直せる社会に変わっていくといいなと思います。
S:ちなみに「WHY」を考えるとき、何かヒントになるものってありますか。
M:自分の中の子ども、つまりインナーチャイルドに問いかけてみることかな。まだ無邪気な子どもだった頃、何が好きだったのか。動物が好きだったとか、絵が好きだったとか、純粋に湧き出る好奇心があったと思うんです。社会的な影響を受けるにつれて「自分には無理」とか、「勉強する時間がないから無理」とか考えて、勝手に夢を封印してしまうけれど、もう一度、それを引っ張り出してくることで、幸せのヒントが見つかるんじゃないかなと思います。
S:なるほど。ちなみにニューヨークで『グレート・ギャツビー』を観たとき、マリウスさんは、「自分もまたステージに立ちたい」とは思いませんでしたか。
M:ものすごい迫力で、「やっぱり舞台って素晴らしい!!」って思いました。うれしくて最初の15分くらい、ずっとスマイルだったと思う。僕は宝塚の舞台に憧れて芸能界に入ったので、本質的にはパフォーマンスが好きなんですよね。でも、自分が舞台に上がらなくてもそういう世界に関わっていくことはできるかもしれない。自分のインナーチャイルドを幸せにするために、ゆっくりと考えていきたいです。
S:そうですね。お姉さんのマリレナさんとのポッドキャストも楽しみにしています!