M: Marius
S: SPUR
S 今年の夏は溶けそうになるくらい暑かったですが、マリウスさんはヨーロッパで夏休みを過ごされたんですよね。
M はい。まず7月に南フランスに行って、その後、兄の結婚式がイタリアのカプリ島であったんですね。
S そうでした、おめでとうございます!
M 家族も揃ったし、みんな笑顔で、すごく幸せな時間でした。その後、パリで友達と会ってからオランダに行って、そこから電車で5時間かけてハイデルべルクの自宅に戻ってきたところです。ドイツって普通の列車と貨物列車が同じ時間帯に走っているんです。だから速い列車に乗っても前に貨物列車が走っているとのろのろ運転になっちゃう(笑)。
S ゆっくりした鉄道の旅も心が休まっていいですよね。それで今回のテーマは、マリウスさんがオランダで参加した「プライド・アムステルダム」についてです。
M 各国で行われていますが、アムステルダムは特に有名なんです。
S プライドパレードは、日本でもよく聞かれるようになりましたけれど、LGBTQ+などの性的マイノリティのコミュニティを祝福すると同時に、彼らの権利と尊厳を求めて開催されるお祭りですね。昨年はスペインのプライドマンスの様子をリポートしてくれましたけれど、今年はアムステルダムに行ったんですね。
M はい、ずっと行ってみたかったんです。オランダは、2001年に世界で初めて同性婚が法制化された国で、性的マイノリティの権利保障についても世界をリードしてきた国なんですね。プライドパレードも1996年から始まって今年で29回目。アムステルダム市の人口って、100万人弱なんですけれど、プライドの期間は、世界中から何十万人もの人が集まってくる一大イベントなんです。
S ほかの国のパレードとは何か違いがあるんですか?
M 一番の目玉は運河を利用した水上パレードだということです。アムステルダムは歴史のある街で、17世紀に造られた3つの主要な運河(カナル)が同心円状に都市を巡っているんですね。そこを約80隻のボートが何時間もかけてパレードするんです。
ボートには、LGBTQ+コミュニティを支援する団体や企業の人たちがそれぞれ乗っているんですが、世界に名だたる一流企業が参加しているだけでなくて、オランダ軍のボートがあったり、アムステルダム警察や沿岸警備隊のボートがあったり。行政の人たちも参加していて、このフェスティバルがしっかり地域に根づいているんだなぁと感じました。
S 本当ですね……って今、YouTubeを見てみたんですが……すごい! ボートが想像以上にデコラティブです! 派手な衣装を着た方々が音楽に合わせて歌ったり踊ったり。街の人はそれを沿岸から応援しているんですね。街全体が超カラフル&フェスティブで楽しそうですね! アムステルダムは移民の数も多くて、ヨーロッパの中でもいち早く多文化主義を取り入れてきましたけれど、LGBTQ+に関してもとても先進的なんですね。
M そうですね。水上パレードのほか、LGBTQ+関連の映画が上演されたり、討論会が開かれたり、さまざまなイベントが開催されていて、街中がお祭り状態。美術館や区役所なんかの公共施設もレインボーカラーに彩られていました。
特に今年はテーマが「LOVE」だったので、「アムステルダムはすべての愛を受け入れることに誇りを持っています」など、愛のメッセージにあふれていて。性的マイノリティに限らず、どんな人も受け入れるインクルーシブなアムステルダムは、素敵な都市だなと思いました。
プライドパレードを企業が利用しているという批判も
Mとはいえ、プライドパレードに対する批判がまったくないわけじゃないんですね。商業的になりすぎているとか、企業は会社の宣伝のためにこのフェスティバルを利用しているだけで、実態はLGBTQ+の人権に配慮していないとか、批判的に言う人もいます。
S プライド・アムステルダムだけ見ていると性的マイノリティに対してとても寛容で開かれた社会が実現されているように見えますが、彼らが置かれている現実の環境には、まだまだ厳しい面もあるということですね。
Mそうですね。アムステルダム滞在中、僕は友達の家に泊まっていたんですけれど、その友達の彼女がイラン人だったんですね。それで話を聞いていたら、イランでは同性愛者だとわかると警察に連行されるそうです。恐ろしいですよね。同じように、今でもまだ世界の60カ国以上で同性愛は犯罪とされていて、中には死刑になる国もある。日本だって先進国と言いながらG7で唯一まだ同性婚が正式に認められていないですよね。
S 本当に。
Mアムステルダムでは、黄色地に紫の円を描いたインターセックスの旗をよく見かけましたけれど、日本ではインターセックスはあまり語られていない気がします。
S インターセックスというのは?
M男性、女性、どちらかの典型的な体に当てはまらない性的な特徴を持って生まれた人のことです。ドイツでは500人に1人がインターセックスとして生まれてくるというデータがあります(※1)。
S そうなんですね。当然日本にもいるはずですがあまり知られていないかも……。
M大抵は生まれたときに、お医者さんが親に「男性にしますか? 女性にしますか?」って聞いて、赤ちゃんのときに手術して性別を決めてしまうわけです。親御さんの気持ちもわかります。男性でも女性でもない体では、子どもがいじめられるんじゃないかって思うから、赤ちゃんのうちに決めてしまいたいって。でも、本人の意思に関係なく決めるのはよくないということで、最近ドイツでは、性別は子どもが14歳になったら、本人が決められるということになりました。実際、子どもの頃から性自認で悩んでいたトランスジェンダーの女性が、大人になって「実はあなたはインターセックスだったのよ」と親から明かされることも少なくないらしいです。
S まだ分別のつかない頃に手術されたら、取り返しがつかないですよね。
MLGBTQ+がマイノリティではなくて、レズビアンもゲイもバイセクシュアルもクイアもみんなが特別じゃなく街にいて、もっと自分を自由に表現できる状態になってこそ、彼らへの理解も深まるし、社会も変わると思うんですよね。
※1 ドイツ倫理委員会(Deutscher Ethikrat)、「Intersexualität – Stellungnahme」、2012年
パレードを日本でやるなら、どこがベストか考えている
S 日本はまだまだこれからですね。
Mそうですね。プライドパレードも少しずつ浸透しているけれど、沿道にいる人の中には、パレード参加者を物珍しい目で見ている人もいて、全員がアライ(性的マイノリティの人々を理解し、支援する人)となって、街全体で盛り上がるという感じにはまだなっていないかも。
アムステルダムに行ってからというもの、「東京だったらどこの水上でやるのがいいだろう?」って、めっちゃ考えてるんですよ(笑)。隅田川は広すぎるし、千鳥ヶ淵だと流れがないし。水上は諦めて、銀座はどうだろうと思っていて。休日は歩行者天国になるから、それを利用してやるのはいいんじゃないかなって。
S ファッションブランドの旗艦店も多いので一緒にできたら最高ですね。ちなみにマリウスさんは、アムステルダムではどんな服装で参加したんですか?
M白いスーツにピンクのシャツを着て、ピンクのキャップをかぶりました。
S さすがおしゃれ!「LOVE」のテーマにぴったりです。
M本当はボートにも乗りたかったんですけれど、前の日に飲みすぎて、当日、出遅れてしまって……。だから来年はぜひリベンジしたいんですよね。2026年はオランダで同性婚が合法化されて25周年ということで、例年より規模の大きい「ワールド・プライド」が開催される予定なんです。それで日本のボートを出せたらいいねって、友達と話しているんです。
S それはぜひ実現してほしいです。マリウスさんがボートに乗った様子はぜひ取材させていただきたいですね。とびきり派手でハッピーな衣装でお願いします!