M:MARIUS
S:SPUR
S:今月のテーマは性の多様性についてです。欧米では、毎年6月は「プライドマンス」(プライド月間)というのが定着しているようですね。日本でも浸透してきていますが、どんなイベントなのか、まず教えてください。
M:そもそもプライドマンスは、1969年6月に起きた出来事がきっかけになっています。ニューヨークのゲイバー、ストーンウォールに警察が踏み込み捜査された際に、LGBTQ+当事者が真っ向から立ち向かって暴動となった事件です。それ以来、LGBTQ+やマイノリティの権利や文化を支持する運動が、毎年6月に行われるようになったんですね。
S:50年以上前に始まっていたんですね。
M:特に近年は、LGBTQ+に関するムーブメントの高まりとともに、プライドマンスも盛り上がっていて、ヨーロッパでは6月になるとお店が全部虹色になったりして、町全体がお祝いのムードになります。パレードも各地で行われていて、スペインでは何百万人もの人が参加するんですよ。
S:スケールが違いますね。パレードにはどんな人が参加するんですか。
M:LGBTQ+の当事者をはじめ、彼らをサポートする「アライ(Ally:LGBTQ+を理解し支援する人)」もいれば、沿道で応援する人もたくさん。あと大手企業もスポンサーとして参加しているんですよね。トラックの荷台に「私たちはプライドマンスを応援しています」などのメッセージを貼り出して、社員とともにパレードしたりして。企業にとってもいい宣伝になるんですね。
S:実際スペインでは、LGBTQ+について、かなり理解されている感じですか。
M:昔に比べたら理解は深まっていると思うけれど、まだまだです。周囲の無理解から、性的マイノリティの人たちが精神的に病んでしまうという話も聞きます。よくあるのが「同性愛者は子どもが作れないからダメだ」みたいな意見。でも、異性カップルでも子どもがいない人はいるし、そもそも子どもがいるかどうかという視点で人間の価値をはかること自体、間違っています。
S:腹立たしい気持ちになりますね。
M:それから欧米は、宗教的に保守的な考えの人も少なくないので、性的マイノリティの子どもを矯正しようとして、親が子どもを宗教的なキャンプに送るなんてことも。でも、友達ともよく話すけれど、セクシュアリティって、自分で選べるものではなくて、生まれ持ったものなんですよね。自分の性別は何か、誰を愛するか、ということは自然に感じることで、説得されて変えられるものじゃない。だからこの世に生まれたままの状態をお互いリスペクトすることが何より大事だと思っています。日本もそうですが、ヨーロッパでも、まだまだ偏見を持っている人がいそうですね。
S:若い世代はどうですか。友達同士の間では、みんな、カミングアウトしているのが普通なのでしょうか。
M:いや、そうでもないし、無理してオープンにする必要はないと思います。もちろんカミングアウトする勇気は素晴らしいけれど、本人が言いたくなければ言わなくていいし。いつかLGBTQ+の人たちの存在がごく普通のことになって、「カミングアウト」という概念すらなくなるのが理想ですね。
S:さまざまなセクシュアリティの人がいる中で、マリウスさんが普段、会話などで気をつけていることがあったら教えてください。
M:たとえば「彼女いるの?」ではなくて、「パートナーいるの?」と聞いたり。あとは代名詞ですね。日本語に比べて英語は代名詞が結構大事で、「自分は体は男性だけれど、ジェンダーは女性なので、代名詞は『She』にしてください」と言われたりするので気をつけています。
S:意思の尊重が大切なんですね。ちなみに6月のプライドマンス、マリウスさんもどこかのイベントに参加するんですか。
M:僕が今入っている大学のクラブが、LGBTQ+とアライの人たちと一緒にさまざまなイベントをマネジメントしているので、この期間も大きなイベントを企画しています。
まだまだ性的マイノリティの人たちの権利がないがしろにされているところがあるので、どうしたら彼らの権利が守られるのか、どうしらたらみんなにとってよりよい環境を作れるのかということを、企業の方や政治家を呼んでパネルディスカッションをするなど、いくつかのイベントを開催する予定です。
S:他人ごとではなく、自分のこととして、みんなでプライドマンスに参加している雰囲気が伝わってきます。素晴らしいですね。
M:結局、この問題って性的マイノリティだけの話じゃないんですよ。女性とか、ハンディキャップのある人とか、移民とか、社会で弱い立場に置かれている人たち全員の問題なんですね。「いや、自分は関係ない」と思ったとしても、もしかしたら自分の愛する弟がゲイかもしれないし、将来の自分の子どもがトランスジェンダーかもしれない。実際、イギリスの調査では、Z世代の約3割がLGBTQ+に相当するというデータもあります。だから誰もが本音で自分らしく生きられる社会をどうしたら作れるのか、安心して暮らせる社会を作るには、どうしたらいいだろうかという課題を自分のこととして考えるのはとても大切だと思います。
S:LGBTQ+の人たちが生きやすい社会は、誰にとっても生きやすい社会だということですね。今日もとっても勉強になりました。それではマリウスさん、7月の卒論完成に向けて頑張ってください!
M:はい、あまり進んでいないので、ここから追い込みをかけないと……。それなのに昨日、2時間もかけてスープを作ってしまいました。
S:ええっ、それはまたなんで!?
M:友達が生理痛がひどいというので、痛みを和らげるスープを作ってあげたんです。何が効くのかネットでリサーチして、しょうが、ターメリック、アスパラガス、チキンなど12種類くらいの食材を入れて煮込んで。もうすっかり母親の気分(笑)。
S:いや〜、そんな友達がいたら最高です。 マリウスさん自身も体調に気をつけて過ごしてくださいね。それではまた来月に!