2024.03.20

【マリウス葉の一歩ずつ進もう】「やめることは、諦めることとイコールではない」

マリウス葉 One step at a time

今月からリスタートする連載では、メンタルヘルスからジェンダーまで彼が毎回ピックアップしたトピックを深掘り。「考えるときは英語のほうがラク」という本人直筆のメモを起点に編集部との対話で思考をストレッチする

マリウス葉さんからのメッセージ

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[ 翻訳 ]

やめることは、諦めることとイコールではない

  • 諦めること:諦めには、敗北感や憤りを伴い、"もっとできたはずだ"という思いがつきまとう。それは敗北を認めることである。
  • やめること:ある場所や状況から離れることであり、何かがもううまくいかないと意識的に決断し、本質的に前に進むことである。
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SPUR(以下S) 今回の連載では、毎回マリウスさん自身がテーマを選び、それについて語っていただくというスタイルになりました。第1回のトピックは、マリウスさんが芸能活動を引退したことと、関係がありそうですね。

マリウス(以下M) じつは僕が新しい道を選択したとき、中には否定的な意見があったんですね。「マリウスは弱いから厳しい芸能界には耐えられなかったんだろう」「芸能活動がうまくいってなかったから諦めたんでしょ」って。「やめる」ということを「敗北した」「挫折した」というマイナスのイメージでとらえている人が少なくなかったんです。

そのときに、「いや、それは違う。やめることはギブアップじゃないんだ」と自分に言い聞かせていたのと同時に、逆に「やめられないことは自分を諦めているんじゃないか」と感じたので、その学びをみんなで共有できたらと思いました。

S 深い学びですね。具体的にはどういうことですか。 

M 皆さんの中にも職場でストレスがあって、「仕事をやめたいけれど、やめられない」という人、いると思います。自分がやめることで周囲に迷惑をかけたくないというのもあるだろうし、環境が変わることへの不安もあるだろうし。また日本社会は、長く続けることが美徳とされているから、続かないと「我慢が足りない」と言われたりもする。

でも、いつまでも自分の心の問題にフタをして、環境を変えないでいるのは、逆に自分の未来やポテンシャルを諦めているということなんじゃないかと思ったんです。

S 無理して続けることが、結局は、自分の可能性を奪っていると。

M 僕の場合がまさにそうでした。そのまま活動を続けていれば、ハッピーな人もいることを理解していたからすごく葛藤した。もちろんファンの方々の喜びが、僕の一番の喜びだったし。僕自身が望む心身の状態とはどうしてもかけ離れていた。けれど、残念ながら当時は、いったん立ち止まってメンタルヘルスを取り戻す必要がありました。人のために生きることは素晴らしいこと。でも、自分の心の声を大切にすべきときがある。だからファンの方々をがっかりさせてしまったことは本当に申し訳なかったけれど、僕にとって「やめる」ことは前向きな選択だったんです。

S 「やめる」ことは、次のステップへ行くために必要な決断のひとつだったわけですね。

M そうですね。たとえば僕がある部屋で暮らしていて、その部屋は居心地がいいけれど、外の世界への憧れや好奇心が日に日に強くなって、居心地がいい部屋のはずが、そこで息苦しさも感じるようになってしまったとします。
その住み慣れた部屋でも、幸せでいられるかもしれないけれど、扉を開けて外に一歩踏み出したかった。未知の世界に飛び込む恐怖より、未知の世界を知らないまま、人生が終わってしまうことのほうが僕は怖いから。
とはいえ、生き方は人によって違うから、よく知っている部屋を大切に暮らしたいということも素晴らしいと思う。そのほうが幸せならば、無理して冒険する必要はない。でも、もし今の状況に何かストレスを感じているなら、心の声をよく聞いて、一歩踏み出してみるのもいいと思う。人生一度きりだからね。

S 「未知の世界に飛び込みたい、でも勇気がない」という人に、何かアドバイスはありますか。

M そもそも「やめる」イコール「諦める」「挫折」というマイナスイメージは、すり込みじゃないかと思うんです。セラピーでよく使う言葉で、「unlearning」という用語があります。「learning」(学ぶ)の反対の言葉で、データを消すみたいな意味。これまで自分を縛ってきた価値観から自由になるためには、思い込みや固定観念を消去する必要があるので、「やめることはよくない」みたいな思い込みをいったんunlearningして、自由になることがすごく大事だと思う。人間、変わることは難しいけれど、ガンジーの言葉で言うと「世界の見たい変化に自分がなれ」ということかな。
ちなみに僕はカレンダーに、「この日は、これについて考えるように」というテーマを前もって書いておくんです。スペインの大学に通い始めた頃は、1カ月後、3カ月後、半年後に「学校は楽しいですか?」「大学をやめて日本に帰りたいですか?」ってカレンダーに書き込んだりして。そうしないと流されていっちゃうから、定期的に自分の気持ちを確認するようにしています。

S それは役に立ちそうなテクニックですね。行動を起こすきっかけになりますし。一方、嫌になったら、すぐに途中で投げ出してしまうというのも困りますが……。

M そう、だから「やめる」というのは、最初の手段ではなくて最後の手段。バランスが大事。できることは全部やった。でも変えられない。これ以上は無理、というところで出てくる選択肢だと思う。逃げなきゃいけないような差し迫った状況ではないなら、という前提だけど。そして「やめ方」もすごく大事。ただ「バ〜イ」じゃなくて、やめる理由をちゃんと説明するとか、お世話になった人には感謝を伝えるとか、人に誠意を持って行動するとか。僕もSexy Zoneを卒業したあと、何度も日本に戻ってきて、メンバーとたくさん話しました。お互い、理解し合えているから、今でも仲間でいられると思っています。

マリウス葉プロフィール画像
マリウス葉

2000年、ドイツ生まれ。幼少期を父の出身地のハイデルベルクで過ごす。元タカラジェンヌの母の影響で歌や踊りのレッスンをはじめ、11歳のとき、Sexy Zoneのメンバーとしてデビュー。2022年12月、芸能活動を引退。2021年9月、スペインの大学に編入した。

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