[vol.88] 強くて怖くて底知れぬ役者魂を持つイザベル・ユペールが、 誰よりもシャネルスーツが似合うと宣言します!

俳優という職業に、一切の恐れと妥協知らずの姿勢を貫き通すイザベル・ユペールの最新作『グレタ』(11/8公開)を観た。作中、孤独な未亡人グレタを演じたユペールが、狂気のストーカーと化して、狙った若い女を恐怖のどん底に突き落とす物語は、彼女一流のユーモアを加味したサスペンス。「グレタには共感できないでしょう」byイザベル・ユペール、と言い切る彼女のプロ意識の上に成り立った演技は、やはり本作のかなめだった。それと私が注目したのは、彼女の衣装だった。

グレタは最初のうちは、ひとり暮らしの人のいい未亡人らしく、落ち着いたトーンの花柄のワンピースなどを着ているのだが、誘い入れた若い女に執着し出すと、次第にファッションも変わってくるのだ。私がハッと目を凝らしたのは、グレタが若い女の働いているレストランに押し掛けたときのファッション。どんどん恐ろしさが増したグレタ、いや、イザベル・ユペールが、シャネルスーツにサングラスをして、ひとりそこに着席している。これが、似合う!似合い過ぎるのだ、シャネルスーツが!とっても怖いシーンではあるが、そして、映画から若干それるのではあるが「シャネルスーツはこうでなくっちゃ。やせた小柄で強面の年増女性。本来のシャネルスーツのエレガンスを作るのは、意思のある面構えの大人の女性。つまり、ガブリエル・シャネル本人が一番シャネルスーツの似合う人。イザベル・ユペールこそがピッタリじゃないの」と思った訳。

思えば、着る予定もないのに、私が過度に肥えたくないのは、シャネルスーツが似合わなくなるから、という深層心理が軽めに働いている気がする。ずっと昔にガブリエル・シャネルの本を読んで以来、彼女の生きざまがシャネルスーツに表れていて、それを生み出した彼女自身が一番カッコよくそれを着こなしていると思った。自分がもっと歳を重ねて、いつの日か、シャネルスーツを着ることができるのか、淡い期待を抱いている。お調子者の私だから、今のところ、その境地にはまだまだ達してないのであるが……。

 

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イラストレーター&エッセイスト 石川三千花

映画、ファッションを独自の視点からイラスト+エッセイで斬る!著書に『石川三千花の勝手にシネマ』、『勝手にオスカー』など。

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