SPUR2017年6月号で、大きな反響があった「そうだったんだ!?小室さん」。音楽家の小室哲哉に、90年代を駆け抜けた6人の女性たちや女性像の着想源、影響を受けたファッションについて語っていただきました。今回SPUR.JPでは、そんな小室哲哉の「現在」と「未来」にフォーカス!「アート」と「エンターテインメント」の境界線や、100年後の音楽についてお話を聞きました。
interview & text:Annie Fuku photography:Yuhki Yamamoto
Tetsuya Komuro1958年生まれ、東京都出身。音楽家。プロデュース業から作詞、作曲、編曲まで手がける。’83年TM NETWORKとしてデビュー。90年代に数々のアーティストをプロデュースしヒットさせた。最新ソロアルバム『JOBS#1』、36曲すべてがTM NETWORKの「GET WILD」という『GET WILD SONG MAFIA』(ともにavex)が発売中。
なんだろうこれ?ってものも、タイトルがあればアート作品になってる
――この度リリースされたソロ作『JOBS#1』、CDはエンターテインメント色が、DVDはアート色が濃いと感じました。小室さんが思う「エンターテインメント」と「アート」の境界線を教えてください。
小室 ざっくりいうと「完パケ」かそうじゃないかってところですかね。「エンターテインメント」は完成させてミスのないように、「アート」は未完成でもプロセスでもOKというか。僕、2016年にオーストリアのリンツで行われた「アルスエレクトロニカ」っていうデジタルアート/メディアカルチャーのフェスティバルに出たんですけど、本当になんでもありなんですよ。正直「なんだろうこれ?」ってものも、そこにタイトルがあって作ってる人がいるとアート作品になってる。まだ僕と脇田玲さん(慶應義塾大学環境情報学部教授)とでやったインスタレーションはエンターテインメントに近いなって思うくらいで(笑)
今はみなさんの声を受け止めることが仕事に
今はみなさんの声を受け止めることが仕事に
――印象に残っている作品は?
小室 唯一エンターテインメントだと思ったのは、ドナウ河の上空でドローンを100機飛ばした「DRONE 100」っていうプロジェクト。インテルがスポンサーで、プロセッサとLEDを使ってあのロゴをドローンで形作ったんですよ。
――へえー!
小室 これは未来の花火だと思ったんですけど、実際には音もしないし、数日やったなかで最終日にしかインテルのロゴにならなかったみたいで。「INTEL INSIDE(インテル入ってる)」じゃなくて「NOT INSIDE(インテル入ってない)」(笑)
――アートのほうが自由で制約がない感じがします。
小室 そうですね。過程でも、全員が喜ばなくてもいい。僕と脇田さんの作品は20分くらいだったんですが、途中から入ってきてすぐ出てっちゃう人もたくさんいて。確かに見たかったら立ち止まって1時間見ててもいいし、興味なければ素通りでもいい。ただ、エンターテインメントという「完パケ」に達成感を感じて何十年もやってきた身としては、「今日インテル入ってなかった」じゃありえないわけですよ(笑)。でもエンターテインメントっていう山はある程度登ったから、次は違う山を登らなきゃいけない宿命なのかなっていうことも思ったり思わなかったり。実際、アートにまつわる仕事のお話が最近すごく多いんです。
――そうなんですね、アート×小室さんも楽しみです。ところで『JOBS#1』のほかにも、近年はglobe20周年、TM NETWORK「Get Wild」30周年、Def Will※プロデュース、国内外のイベント参加やメディアに登場と精力的ですよね。
小室 活動的にさせられてるだけですよ(笑)。90年代とはまた違った意味で仕事が止まらなくて。あと、いまはみなさんの声を「聞く」のも仕事になってますね。いろんな仕事の現場で、毎回2~3人の方が、どれだけ影響を受けたかっていう熱い想いをキラキラした目で言ってくれるんですよ。「小室さんの音楽のせいで青春がなくなった」とか(笑)、「小室さんの音楽のおかげで文系から理系にしました」まで。そういう人たちと、今度は一緒になにか作り上げましょうって話になるんです。それが次の夢になってくれてる人も多くて。
※小室哲哉がプロデュースするガールズグループDef Willの「あなたという明日」/avex
「個」が優しければ争いは起きない。まずは自分がジェントルであろうと
「個」が優しければ争いは起きない。まずは自分がジェントルであろうと
――小室さんの曲のインパクトってやっぱりすごいものがあるんですね。
小室 聞いてくれる人が驚いて、感動して、思い出になるような曲作りを心がけていますね。僕の音楽に影響を受けたという方がたくさんいてうれしいし感謝してるんですけど、そういう話をひとつひとつ受け止めるのには体力や気力がいります。だから自分の責任みたいなものもここ数年すごく感じています。今後もなるべく多くの、そういった方々の話を受け止めていきたいと思っているんです。
――『JOBS#1』収録曲の「22世紀の架け橋」で、「役に立てたというプライド」って歌詞が出てきますよね。他の楽曲の歌詞や音楽に対する姿勢からも、小室さんの誰かの「役に立ちたい」という想いが伺えます。なにがそうさせているんですか?
小室 基本的には生まれ持ったパーソナリティーだと思います。ただそんなにできた人間ではないので、役に立ちたいってことだけではまったくないですよ。そうありたいな、結果として相手がそう思ってくれたらいいなって。争い事が嫌いなので、なるべくならソフトに、そっと生きていきたい(笑)。「個」が優しければ争いは起きないって考えなので、まずは自分がジェントルであろうと。それは博愛主義という意味ではなくて、単に怖がりだからだと思います。そういう姿勢が歌詞や音に反映されているのかもしれません。
――優しくしても見返りは求めずに。
小室 そう。優しくしたから女性も優しくあってくれってなると自分を押しつけることになるので、そこでまた争いが(笑)。とはいえフェアな男女関係ってなかなか難しいですけどね。
100年前でも100年後でも、同じように聞いてくださっているんじゃないかな
100年前でも100年後でも、同じように聞いてくださっているんじゃないかな
――確かに割り切れないことが多いですね。
小室 一番シンプルでちっちゃい戦争が起きるのって男女間ですよね。でも、だからこそドラマが生まれるんだと思います。
――それでは最後に。100年後の音楽はどうなっていると思いますか?
小室 いまだに何百年前の戦国時代や幕末明治維新の話がおもしろいように、100年後もいまの音楽が語り継がれているんじゃないかな。現代の音楽がクラシック音楽のように、逆に新鮮なものになっているかも。つくづく20世紀と21世紀をエンターテイナーとしてまたげて、運が良かったなあと思います。
――世紀末のノストラダムスの大予言を乗り越え、日本だと昭和・平成・次の年号もまたげるってところですもんね。
小室 そうだね、健康だったらね(笑)
――音楽の聴かれ方もデバイスが変わっていくだけで、そんなに変わらないかもしれませんね。
小室 先日、ベトナムご訪問時の天皇皇后両陛下の前で、「DEPARTURES」を演奏させていただく機会があったんです。非常に達成感がありました。そのときのおふたりを見て、これが100年前でも100年後でも、同じように聞いてくださっているんじゃないかなって素直に思いましたね。そういう意味では音楽の聴かれ方って、根本的なところでは1000年くらい平気で変わらないんじゃないかな。とにかくおふたりのオーラがすごくて。皇后陛下から「シンセサイザー」って言葉が出てきたときはびっくりしましたけどね(笑)
着たい服はどこにある?
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