2017.09.30

プリンスも絶賛したリアン・ラ・ハヴァス。ソウル好きならおさえておきたい!

interview&text:Hiroko Shintani  photography:Kikuko Usuyama


ジャマイカ系の母とギリシャ系の父の間に生まれたシンガー・ソングライターのリアン・ラ・ハヴァスは、マルチカルチュラルな故郷の町ロンドンを体現する女性だ。スモーキーな美声に恵まれた彼女の音楽に敢えて名前を与えるとしたら、ソウル・ミュージックなのかも。でも、ギターを爪弾きながら歌うシンプルでフォーキーな曲を満載したデビュー作『Is Your Love Big Enough?』は、ジャンル分けを頑なに拒んで独自の世界観を打ち出すアルバムだった。同作はメディアの絶賛を浴びてリアンをスターにしただけでなく、プリンスやスティーヴィー・ワンダーをも魅了。その後さらに自由にジャンルを横断するセカンド『Blood』を発表し、先頃ずばり『Tokyo』と題された最新シングルをリリースしたばかりだ。そんな彼女とほかならぬ東京で対面してみると、レイドバックで人なつっこくて、音楽と同じくらいファッションを愛するチャーミングな女性だった。

Profile
1989年、ロンドン生まれ。高校時代に音楽活動を始めて11年にデビューし、『Is Your Love Big Enough?』(12年)と『Blood』(15年)の2枚のアルバムを発表。『Blood』ではグラミー賞最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞と、BRIT賞女性アーティスト賞の候補に挙がった。今秋は映画『ゴッホ最期の手紙』(10月公開)の主題歌でも歌声を聴かせる。

 

せっかく東京にいるんだから、MV作っちゃおうかって話になったの

――『Blood』からカットした最新シングル『Tokyo』は、異国で感じる孤独感を映したラヴソングですよね。どんな風に生まれたんですか?

2013年秋に私は初めて来日公演を行なって、その時に東京で抱いた感情を表現してみたくなったの。あれは素晴らしい体験ではあったんだけど、何しろ初めて訪れる国だし、私が知っている限り故郷から一番遠くて、ほかのどの国とも違う不思議な場所だったから、すごくインパクトが大きかったのよね。

――8月に公開したミュージック・ビデオも東京で撮影していますね。

このビデオの監督であるラヴィ・ダーと、4月に休暇で日本に来たんだけど、せっかく東京にいるんだからビデオを作っちゃおうって話になったのよ。ラヴィはアルバムのジャケットも撮ってくれた長年の友達で、『Tokyo』を初めて聴いた時から、映像のイメージを膨らませていたらしいの。そんなわけで、ヘアメイクも自分でやって、ふたりで東京のあちこちでロケをしたわ。その後、名古屋と京都と大阪に足を延ばして、これでもかっていうくらい美味しいものを食べて、買い物をしまくって、新しい友達をたくさん作って、日本を満喫したの(笑)。

究極的には、いわゆるソウルと総称されるジャンルの定義を塗り替えたい

ーー『Tokyo』はジャズファンクと呼べなくもない曲ですが、あなたはジャンルに捉われずに、その時々に様々な影響を取り入れながら音楽を作っています。そういう志向が理解されるまでに、少々時間がかかったそうですね。

そうね。デビューした時は若かったせいか、自分の音楽性がどういうものか、それが人々の耳にどう響くのか、あまり深く考えていなかったの。今も、はっきりと自分で説明できないところが色々あるわ。でも作品を通して常に、ジャンルに縛られたくないってことを伝えようとしてきたつもりよ。私の肌の色を見て先入観を抱いていた人も、きっと曲を聴いてすぐに、“あれ?”って思ったはず。究極的には、いわゆるソウルと総称されるジャンルの定義を塗り替えて、自分独自の道を拓きたいと思っているんだけど、だからといって、聴き手を遠ざけるようなことはしたくない。誰にでも聴いてもらえる、開かれたアーティストでいたい。そんなことをいつも考えながら活動しているわ。

――では、どんなスタイルの曲であろうと、常に変わらない部分は?

誠実さ……かな。それが必ず核にあると思う。サウンドとしてどんな風に聴こえても、偽りのない曲であれば、必ず誰かの心に届くと信じているわ。それから、ギターももうひとつの共通項ね。その響き、感触、全てが好き。ギターを弾きながら曲を書いていると、私にいろんなことを考えさせてくれるの。メロディの感覚にも影響を与えているし、私の音楽に不可欠な要素だわ。

 

プリンスのショウマンとしての磁力はすさまじかった

――これまでコラボしてきたアーティストを振り返っても、コールドプレイのツアーの前座を務めたり、ダンスユニットの曲に参加したり、幅広いですよね。

そうね。相手が誰でも違和感はないわ。以前、元レッド・ツェッペリンのロバート・プラントの前座を務めたことがあるんだけど、それもアリだと思ったし(笑)、逆にそういう自分の立ち位置が気に入っているの。結局のところ、私は自分の歌を歌うだけだから!

――中でも、昨年亡くなったプリンスとは何度も共演しましたし、彼はあなたの自宅で記者会見を開いたこともありました。プリンスからはどんなことを学びましたか?

まず、プリンスが類稀なソングライターであることは言うまでもないんだけど、ミュージシャンとしての技量、観る者を夢中にさせるショーマンとしての磁力、全部ひっくるめて偉大なパフォーマーだった。彼のライヴを超えるショーはなかったわ。そういうパフォーマンス力にインスパイアされてやまなかったし、大変な努力家でもあったから、ハートワークの大切さを教わった。音楽界を志す若い人にも、それを伝えたいの。努力を惜しまずにやれるだけのことをやれば、結果がどうあれ、後悔しないはずだから。

――現在はサード・アルバムを制作しているんですよね。

ええ。まだ詳しいことは言えないけど順調に進んでいて、目標は“いい作品にする”ってことに尽きるわ。あと、ライヴ形式でレコーディングをしたいと思っているの。これまで精力的にライヴ・パフォーマンスをしてきたし、その一瞬だけの、偶然が重なって起きる共時性みたいなものを記録してみたくて。それから、前作では多くのコラボレーターと共作したんだけど、今回は、自分独りでの曲作りを楽しんでいるわ。つまり原点に帰るような感じね。いろんな体験をして原点からどんどん離れていって、見失ってしまったものがあるような気がするから。とにかく私自身が聴きたいと思えて、誇りを抱けるアルバム、親しい友達やボーイフレンドに自信をもって聴かせられるアルバムにしたい。

ファッションて身に着けることができるヴィジュアル・アートだと思うの

――最後に、英国の音楽界きってのモード・ラバーのひとりとして知られるあなたのファッション観を聞かせて下さい。

私の場合はそもそもヴィジュアル・アート全般に興味があって、ファッションって要するに、身に付けることができるヴィジュアル・アートだと思うの。それに、ファッションの心理的作用って素晴らしいし、自分の心境やパーソナリティを表したりもできる。だから、気分をアゲるためだけにオシャレをすることもしょっちゅうあるわ(笑)。

――ロンドン・コレクション期間中はショウ会場でよく姿が目撃されていますが、お気に入りのデザイナーは?

私の好みは言わば、“イースト・ロンドンのヒップスター・ファッション”で、ビンテージが大好きなんだけど、お金に糸目をつけなくていいなら(笑)、まずはグッチ。バーバリーも、シーズンごとにインスピレーション源を明確に反映させているところが大好き。色彩感覚がすごくロンドンらしいし、コスメも素晴らしいの。トム・フォードも同じく、服もコスメも最高。特別なドレスが必要な時は彼に頼るべきね!

INFORMATION

『Blood』
リアン ラ ハヴァス

ワーナーミュージック・ジャパン

母方の家族を訪ねてジャマイカを旅した体験にインスパイアされたセカンド・アルバム。自分のアイデンティティと向き合う本作でのリアンは、アコースティック志向の前作から一転、ジャズやレゲエ、ロックなどなど多様なサウンドとリズムで実験し、カラフルな曲の数々を仕上げた。全英チャート最高2位を獲得。

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