2021.12.08

リリシストの目線【UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音】

UMMMI./うみ
1993年東京都生まれの映像作家。これまでに、愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ・ヴィトンやナイキなどとの仕事の傍ら、音楽好きな一面を生かしMV制作も行う。

vol.10 リリシストの目線

『夏服』
aiko
『New Poems (Volume Two)』
James Massiah

突然だけど、アタシはaikoが大好きである。小学生のときに出会ってから、ファンクラブにも入って全曲レビューする携帯サイトを作っていたほど、心酔していた。彼女の曲はどれも一貫性があり、同じテーマの反復で成り立っているから(アタシにとっては、ミニマルテクノとも演歌とも呼べるかもしれない)ボロボロに疲れ果てたとき、体にしみるように入り込んでくる。と、aikoへの愛を綴っている今日から1週間後には絶対に政権交代させたい選挙が控えている。一票の重さと、自分の無力さにうなだれながら、めずらしく作家としての自分の存在を考える。アタシは投票してSNSで訴えるくらいしかできないけど、aikoはその気になれば、こんな気持ちをテーマに歌えてしまうのだろう。アルバム『夏服』に収録されている「終わらない日々」を聴きながら思う。『強い壊れそうにない今の気持ち/あたしはサラリと歌いこなす事も出来ます』。その言葉に、歌詞から作り始めるというaikoのリリシストとして生きてゆく覚悟を感じる。

また、現代社会を描き続けているJames Massiahからもその重みを感じる。『New Poems (Volume Two)』内の「Afraid」という曲では、こう問いかける。『あなたは恐れていますか/僕が恐れているみたいに』。そして「Busy」ではこう歌う。『今夜も空いてないんだよ/まだ忙しくて/でも本当はゆっくりしたい/眠りたい』。自分の弱さや恐れを言葉にすることは怖い。けれど、aikoは眠れない夜や失恋を歌ってくれるし、James Massiahが恐れや疲れを吐露してくれる。そんな彼らの曲を子守唄のように聴いて、アタシもなんとか短い眠りにつくことができる。これが出る頃には今後の方向性が見えているだろう選挙後の日本に、恐れと希望を抱きながら。

Monthly Pick-up

『If Words Were Flowers』
Curtis Harding
配信中/ANTI
"言葉が花束だったら"と題されているように、11の曲を通じて愛、共感、連帯の手を差し伸べている、アトランタ出身のソウル・シンガーの新作。パンデミックやブラック・ライブズ・マター運動を背景に生まれた彼のアンセムはどれも、重厚なビンテージ感とぬくもりで、聴き手をやさしく抱擁する。
『Projector』
Geese
¥2,750/Big Nothing
6月にデビュー・シングルを発表したばかりなのに、大型新人として急速に注目度を上げたのが、NY出身の10代5人組だ。ノイジーな不協和音、キャッチーなメロディ、そしてサイケデリックなグルーヴが絡み合う変幻自在のロックンロールは、天性のセンスと未知数のスケールを感じさせる。

SOURCE:SPUR 2022年1月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: UMMMI.   Hiroko Shintani(Monthly Pick-up) edit: Ayana Takeuchi