2022.03.08

崖っぷちで、スヌープ・ドッグとお金の話【UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音】

UMMMI./うみ
映像作家/アーティスト。これまでに、愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに資生堂ギャラリーや東京都写真美術館などで作品を発表。ルイ・ヴィトンやナイキなどとの仕事の傍ら、音楽好きな一面を生かしミュージックビデオの制作も行う。

vol.13 崖っぷちで、スヌープ・ドッグとお金の話

『Paper'd Up』
Snoop Dogg

スヌープ・ドッグのアルバム『Paid Tha Cost To Be Da Bo$$』に収録されている「Paper’d Up」という曲は冒頭からいきなり、金、金、金というフレーズの連呼で始まる。金がなければペンと紙も手に入らないし、チキンウィングも食べられないと歌う。そんな彼は、合法の地域で大麻や酒類を展開したり、最近では自身の名前であるスヌープ・ドッグにかけたホットドッグブランドまで作ると噂をされ、ビジネスマンとしての成功も収めている。

一方、アタシ自身はお金のことを考えることがかなり苦手なほうだけど、この社会で生活している以上、お金からは逃げられない。特にフリーランスとして仕事をしているので、請求書や領収書といった紙きれに埋もれる日々を過ごしている。そんなフリーランスや自営業の人々に打撃を与える「インボイス制度」が、このままだと2023年に始まってしまう。この制度について触れようとすると、誌面に限りがあるので難しいが、個人事業主から税を徴収しやすくする制度だと言える。富裕層から税金を取るのではなく、一般層から税金を絞り取る制度とも言えるインボイス制度。ただでさえアタシたちは税金の高い社会で生きているのだから、少しでもみんなが生きていきやすい環境にしていきたい。多様な働き方が認められるようになってきた今こそ、気になる人はまずネットで調べたり、周りの人たちとこの制度について話してみてほしい。

契約書などお金にシビアだと言われるスヌープ・ドッグが、同じラッパーの21 Savageにアドバイスしているインタビュー動画を見た。「お金を稼いだら、金のネックレスや家、車じゃなくて、音楽を作る環境に使え。そうやってお金を作り続けるんだ」。その言葉を自分に言い聞かせる。本当は美しくて高い服だって欲しいけど、まずは働いて稼いだお金を全部自分の作品につぎ込んで、崖っぷちを歩きながら、誰も見たことのない頂点に向かって進んでいこう。

MONTHLY SELECTION

『Moon in Earthlight』
Wolfgang Tillmans
¥2,420/Calentito
近年音楽制作に力を注いでいたフォトグラファーによる、初のアルバムが完成。そこから聴こえるのは、まさに写真を撮るように身の回りの音を採取して織り込んだ、エレクトロニックなコラージュ音楽。自身の信条を淡々と述べる声が、ポップとアブストラクトの間を揺れる19の曲をひとつに束ねている。
『Once Twice Melody』
Beach House
¥2,970/Big Nothing
8枚目のアルバムにして以前にも増して旺盛な創造欲を見せつけるのは、美しいドリーム・ポップを鳴らし続けてきた男女デュオだ。今作は2枚組で、それぞれに起承転結する4つの章に分割。彼ら特有のノスタルジックなメロディを多様な質感のサウンドで包み込み、色とりどりの夢を見せてくれる。

SOURCE:SPUR 2022年4月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: UMMMI. Hiroko Shintani(MONTHLY SELECTION) edit: Ayana Takeuchi photography: Mayumi Hosokura