UMMMI./うみ
1993年東京都生まれの映像作家。これまでに、愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ・ヴィトンやナイキなどとの仕事の傍ら、音楽好きな一面を生かしミュージックビデオの制作も行う。
vol.14 未来はアタシたちの手の中
THA BLUE HERB
石原慎太郎氏が亡くなって、社会的弱者に対する彼の差別発言が改めて話題になった。LGBTQや外国人への嫌悪など、暴力的な言葉にもかかわらず、それを「石原節」と受け流すメディアもあり、気分が悪くなった人もいると思う。もちろんこの世に失敗をしない人はいないし、絶対に失言しないとは誰しもが言いきれない。でも重要なことは、自分の知らなかったことを知ろうとすること、自分の間違いを認め傷つけてしまった人々に謝罪して、今度は少しでもよい社会になるように行動することなんじゃないかな。亡くなったからと言って、すべてが消えてなくなるわけではない。人々の記憶に残り続けるし、残された人々は、先人たちが残した社会で生きていく。
それを踏まえて、もしアタシが死んだときには、葬式でTHA BLUE HERBの「未来は俺等の手の中」を流してほしい。「補償を出してくれ、仕組みを作ってくれ」と、いまの政治に意見を叫ぶ彼らの想いを墓の中まで持っていきたい。石原氏の発言を聞いて傷つく人もいれば、THA BLUE HERBのたった一言が社会を変えることもある。だからアタシが死んだときには、しんどい人にこそまっすぐに刺さる、どこまでも誠実なこの曲を合唱してほしい。
「理想は余裕のあるヤツのものだ 希望は今の俺にはまるで人ごとだ」という歌詞を聴いて、これは自分の話だっていつも思っていた。大学に通うお金が足りなくて水商売をしていた学生時代、仕事に向かう電車の中で、お守りのようにこの曲を聴いていた。理想の社会について考えるよりも、とにかく自分のことで精一杯だった。あの日に比べるとアタシの状況は少しずつマシになった。だから今度は、社会的弱者と呼ばれる人たちが傷つかない社会にするには、どうすればいいかなって考えている。いましんどい人は明日を生きることで精一杯だと思うけど、この曲を聴いて、この言葉だけ信じてほしい。「未来はアタシたちの手の中」。
MONTHLY SELECTION
Hinako Omori
¥2,530/Big Nothing
Jenny Hval
¥2,420/Beat Records
SOURCE:SPUR 2022年5月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: UMMMI. Hiroko Shintani(MONTHLY SELECTION) photography: Mayumi Hosokura edit : Ayana Takeuchi