UMMMI./うみ
1993年東京都生まれの映像作家。これまでに、愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ・ヴィトンやナイキなどとの仕事の傍ら、音楽好きな一面を生かしミュージックビデオの制作も行う。
vol.16 大きなものに向かって静けさの中で吠えろ
「Leaving Home」 Yo La Tengo
ケリー・ライカート監督の『オールド・ジョイ』(’06)を7年ぶりに観た。30代半ばに差し掛か り、家庭を持ち仕事に意義を見出す男とヒッピーのような生活を続ける男ふたりのロードムービー。Yo La Tengoの「Leaving Home」は、劇中に出てくるふたりの感情を表現するかのように差し込まれる。メロディがしっかりあるのに、静寂と地続きな音楽。学生のときに初めて観た印象とはまったく違って、この静謐な音楽に誘われて、人生の移ろいゆく悲しみと喜びに、感情移入してしまう。女性であるライカート監督と同様、アタシ自身も女の体を持ちながら映画を撮っている。正直、女に生まれてよかったことは一つもないけれど、唯一救いだなと思うのは、人のことを怖がらせにくい肉体を持って生まれたことである。もちろん女性でも相手を傷つけ、怖がらせてしまうことは絶対的にあるけれど、体が直接的な凶器になることは、男性の体と比べて作り的には少ない。日本では連日、映画業界の性被害の話が上がっている。傷と向き合うことはとにかくつらい。過去の記憶がまるでいま起きているかのような気持ちになり、自分がめちゃくちゃになってしまう。だからできるだけ忘れることができるように、記憶に蓋をしたほうが楽であることに間違いはない。アタシも声を上げるべきだと頭ではわかっているのに、記憶が蘇ってきて体がどうしても硬直してしまう。それでも勇気を出して震えるような声明文を出している女性たちがいる。本当に心から、頑張ってくれて、声を出してくれてありがとう。本当はこんなこと言いたくない、楽しく生きたい。でもこのへどが出そうな悪習に満ちた業界を変えるために(もちろん誰しもが人を傷つけうるという事実を認識して自戒を込めて)、それでも無理のない範囲で声を出せる人は一緒に連帯してほしい。性暴力を一緒になくしましょう。大きな権力に勝てるのは、静けさの中から出てくる言葉や音楽だと思うから。
MONTHLY SELECTION
Charlotte Adigéry & Bolis Pupul
¥2,420/Calentito
They Hate Change
¥2,530/Big Nothing
SOURCE:SPUR 2022年7月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: UMMMI. photography: Mayumi Hosokura (portrait) edit: Ayana Takeuchi