2025.11.05

【ブラッド・オレンジ】故郷、亡き母への思いを切なく描く新作をレビュー【2025年11月のおすすめ音楽】

一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ!

一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ!

hashimotosanのおすすめ音楽

『Essex Honey』Blood Orange

『Essex Honey』Blood Orange

『Essex Honey』Blood Orange
¥2,290/Sony Music

記録的猛暑となった今年の夏。容赦なく降り注ぐ太陽の光、体にまとわりつくような湿気。しかし、いざ終わりを迎えると急に寂しく感じてしまうのだから、人間の感情というのは不思議なものだ。イギリス出身のミュージシャン、デヴ・ハインズによるプロジェクト、ブラッド・オレンジの最新作『Essex Honey』は、夏が過ぎ去り秋に向かっていくときの憂愁を帯びた風や匂いを感じる、実に美しく切ない作品だ。

タイトルにもあるエセックスは、ロンドン郊外にある田園風景が広がるのどかな地域で、彼の生まれ育った故郷でもある。これまで一時拠点にしていたニューヨークや、父親の出身地であるシエラレオネを題材にしてきた彼が、初めて自分自身の過去に向き合った今作。そのきっかけは2年前に母親を亡くしたこと。幼少期にいじめに遭うなど、あまりよい思い出のないエセックスを久々に訪れたときに感じた喪失感や孤独感、母親との記憶などさまざまな思いが入り交じった複雑な感情を、音楽にのせて表現しているピアノやチェロの音色は色彩豊かな響きだが、ヴォーカルのトーンは悲しみを隠すように淡々としている。全体を通し、セピアカラーで色づけされた絵画作品のような美しさを放っているのが印象的だ。

故郷での思い出を演出するかのように、エリオット・スミスやドゥルッティ・コラムなど、彼が聴いて育った80−90年代の音楽が引用されているのも今作の聴きどころ。今年最も洗練された作品の一つだ。

HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)プロフィール画像
HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)

ジャンルを問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。Itなアーティストを紹介する自身のX(@hashimotosan122)にファン多し。最近は、新調したアナログプレイヤーでレコードを聴きながら過ごす時間がお気に入り。

2025年11月のおすすめ音楽

『I’m Only F**king Myself』 Lola Young

『I’m Only F**king Myself』 Lola Young

配信中/Universal Music

シングル「Messy」のヒットで大ブレイク中のロンドンっ子が新作を完成。パンチの効いた歌声と赤裸々な言葉で自分の欠点と向き合う、ナマ傷だらけのローラ流ロックンロールで、アイコン度を大幅にアップ!

『That’s Showbiz Baby!』 Jade

『That’s Showbiz Baby!』 Jade

配信中/Sony Music

本作でソロデビューを果たしたのは、リトル・ミックスの一員として知られる英国人シンガー。新旧多様なスタイルにインスパイアされた14曲を、圧倒的なスター性と存在感が貫く、傑作ポップアルバムだ。

『Euro-Country』 CMAT

『Euro-Country』 CMAT

配信中/AWAL

アイルランド発、独自解釈を加えたカントリー音楽で世界を魅了するCMAT(シーマット)は、今知っておくべき名前だ。切なくもウィットあふれる曲を満載したこの最新作は、オンリーワンな個性を伝える。

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