2022年の9月にジャン=リュック・ゴダール監督が亡くなった。しかも安楽死で。というのは全世界の映画ファンに衝撃を与えた出来事だったと思う。安楽死が許されるスイス国籍を持っている上にお金もかかる、ある種の特権的な死をゴダールが選択したという事実は、アタシにとって安楽死、あるいは自殺幇助の問題を考える大きなきっかけになった。
そして、この記事を書いている数日前には、女子中学生の自殺を手助けした28歳の男性が逮捕されるニュースを目にした。安楽死や自殺幇助が合法化されている国がある一方で、日本を含めて非合法の国がほとんどである。もちろんさまざまな議論はあるにしろ、人種性別関係なく誰しもに言えることは、大きな病や事故により、不条理としか思えないような出来事が起きてしまう世界に生きている。そして、それはたとえ誰かのことを深く愛しても、いつかその人は死んでしまうということにもつながる。想像しただけで悲しすぎるよ。でも、運命を受け入れ、なんとか生き続けていくことに意味があるのではないだろうか。自分と同じような悲しみや重荷を背負った人が世界のどこかに生きているだろうという臆測は、誰かの人生を支える可能性にもなる。
そんなことを考えるうちに、工藤礼子さん・冬里さんの夫婦デュオによるアルバム『Tangerine』が頭に浮かぶ。か細く繊細なのにどこか意志の強さを感じる礼子さんの声。そして彼女の背後にあるどこか遠い場所から、あるいは頭の奥底で鳴り響く、美しいノイズ混じりのギターやピアノの音色。二人の実験的なアシッド・フォークのムードは、どこかゴダール作品の、ザクザクと切れるジャンプカットや不運な状況で輝く出来事のようなイメージと重なる。アルバムのタイトルにもなっている、タンジェリンがポトリと木から落ちるように人生は唐突に始まり、死によって終わる。それでも、たとえ絶望の中でも生きていくことが何よりの抵抗なのだ。それを、この作品がアタシに思い出させてくれる。
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