2023.07.05

唯一無二のラッパーが誘う、深く妖しいヒップホップの新世界【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】

 

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一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ!

『Maps』 billy woods & Kenny Segal

『Maps』 billy woods & Kenny Segal
『Maps』 billy woods & Kenny Segal
¥3,190/Backwoodz Studioz

ヒップホップという文化が誕生して50周年を迎えるといわれる2023年。音楽やダンスだけでなく、あらゆるアートやカルチャーに多大な影響を与えながら進化してきたジャンルの一つでもある。また、グラミー賞でもその歴史を讃えるセレモニーが催されるなど、ますます盛り上がりを見せている。ここ数年のトレンドは、90年代に主流だったジャズやソウルと接近したブーンバップの再燃や、日本のアニメやアフリカの民族音楽など、多種多様な響きから引用したアブストラクト・ヒップホップなど、サンプリング主体のビート。その中心にいるアーティストが、アール・スウェットシャツやダニー・ブラウンだ。特に、ダニーはJPEGMAFIAとコラボレートしたり、ジャズミュージシャンのカッサ・オーバーオールの新作アルバムに参加するなど、その活躍ぶりには目を見張るものがある。

そんな彼が参加しているのが、ニューヨークを拠点に活動しているラッパー、ビリー・ウッズの手がける最新作『Maps』。近年のヒップホップを語る上で欠かせない存在になるであろう圧巻の完成度の作品だ。ロサンゼルスを拠点に活動するプロデューサー、ケニー・シーガルが手がけるサウンドは、アンダーグラウンドな空気が漂う、妖しげな質感ながら、生楽器の温かみのあるジャジーな音色が心地よい響きを放つ。多作で知られる彼は毎年のように作品を発表しているのだが、毎回異なるビートメイカーとタッグを組み、どんな音でも自分のものにしてしまうスキルの高さにはいつも驚かされる。ともに作家だった両親の影響で多くの本を読み育った彼の歌詞は、文学作品や映画などから引用した芸術性の高い難解な表現が多く、富や名声を誇らしく宣言する多くのラッパーたちとは一線を画していると思う。クラブやパーティなどで大人数で踊り、楽しめるものだけでなく、今作のように一人自分の部屋の中でじっくりと耳を傾け、その世界に浸れるような作品も増えてきている。ヒップホップは今後もさまざまな方面や角度で進化を続けていくだろう。

HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)プロフィール画像
HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)

ジャンルや国、時代を問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。今注目すべき、Itなアーティストを紹介する自身のTwitter(@hashimotosan122)にファン多し。

MONTHLY SELECTION

『The Good Witch』 Maisie Peters

『The Good Witch』 Maisie Peters

¥2,860/Warner Music

あのエド・シーランに才能を見出された英国人シンガー・ソングライターは、自分の中のロック魂にアクセスし、失恋の痛手と向き合うセカンドを完成。視点にひねりをきかせ、笑いも怒りも交えて、涙が乾くまで人間の心の不思議をひもとく。

『In the End It Always Does』 The Japanese House

『In the End It Always Does』 The Japanese House

¥2,750/Dirty Hit

ザ・ジャパニーズ・ハウスことアンバー・ベインは、The 1975の妹分と呼べる存在だ。4年ぶりのアルバムで優美なメロディに磨きをかけた彼女。恋の始まりから終わりまでの微妙な気持ちの移ろいを、儚くも強さを秘めた曲の数々でたどる。

『My Soft Machine』 Arlo Parks

『My Soft Machine』 Arlo Parks

¥2,750/Big Nothing

2年前のデビュー作で絶賛を浴びたロンドン出身のアーロは、その後身辺で起きた出来事を新作に綴った。優しくこぼれる声を包むのは目まぐるしい環境の変化を物語る多彩なサウンド。カオスの中で大切なものを見極めていく姿を浮き彫りに。

FEATURE