2025.09.05

【リトル・シムズ】自分の弱さ、孤独感と向き合い得た強さ【hashimotosanのおすすめ音楽】

一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ!

一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ!

hashimotosanのおすすめ音楽

『Lotus』Little Simz

『Lotus』Little Simz

『Lotus』Little Simz
¥2,860/Beat Records

自分の弱さを見せられる人は強い。心理学の世界でよく使われる言葉だ。本来、他人に知られたくない部分をさらけ出せたり、マイナスな部分を表に出せたりするのは強さと言えるのかもしれない。イギリス出身のラッパー、リトル・シムズは、その点で本当に強い女性だ。ひとりの黒人女性として生きる上での葛藤や悩みを吐露しながらも、それに対する怒りや批判を勇敢な姿勢で表現し、技巧派ラッパーとして確固たる地位を築いてきた。

そんなシムズの最新作『Lotus』は、これまでで最もパーソナルな内容、そして最も制作が難しい作品だったと言えるだろう。彼女の幼なじみであり過去3作のアルバムでメインプロデューサーを務めてきたInfloと金銭トラブルが発生し、関係が破綻。制作中だったアルバムもお蔵入りとなり、親友もお金も作品も失うという先の見えない暗闇の中で、なんとか前を向いて完成させたのが今作だ。

1曲目の「Thief」ではかつての親友を泥棒呼ばわりするなど、自らの抱える怒りや失望といった感情を隠すことなく表現している。一方で「Lonely」という楽曲ではタイトルの通り、さまざまなものを失い、ひとり残された孤独感を弱々しく吐き出す。アルバム全体を通して、シムズの強さと弱さが生々しく描かれた内容になっている。そんな彼女の心の傷を癒やすかのように、モーゼス・サムニーやサンファなど、シムズと同じアフリカをルーツに持つアーティストが多数参加しているのも印象的。困難を乗り越え、新たな仲間たちと作り上げた「再生」の一枚だ。

HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)プロフィール画像
HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)

ジャンルを問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。Itなアーティストを紹介する自身のX(@hashimotosan122)にファン多し。最近は、新調したアナログプレイヤーでレコードを聴きながら過ごす時間がお気に入り。

2025年9月のおすすめ音楽

『orchids (lullabies)』 no na

『orchids (lullabies)』 no na

配信中/The Orchard

インドネシア発、新人ガールズグループのファーストEPは、4人のメンバーそれぞれにちなんだララバイを中心に構成。声の美しさが引き立つドリーミーな曲の中には静かな夜が広がり、花の香りが漂っている。

『Self Titled』 Kae Tempest

『Self Titled』 Kae Tempest

配信中/Island Records

性別移行を経て男性としてこの新作を発表するのは、英国人のラaッパー・詩人・戯曲家だ。これまで主に社会に向けてきた視線を自分の内面に向けて、壮大なサウンドを背景に、アイデンティティを再確認した。

『The Prophet and The Madman』 Ami Taf Ra

『The Prophet and The Madman』 Ami Taf Ra

¥2,860/Beat Records

カマシ・ワシントンのプロデュースのもと、モロッコ生まれのシンガー・ソングライターがデビュー。北アフリカ圏の音楽とジャズやゴスペルが出合うスピリチュアルな世界で、彼女のマジカルな歌が縦横に舞う。

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