連載を始めてから丸二年間、ついに最終回となる。社会で起きた出来事と音楽を接続させる試みをこの短い文字数で続けていく中で、ずっと頭の中にいるのはECDの存在だった。彼のあまりにもまっすぐなリリックや政治的な態度を通して、音楽と政治がつながるということを初めて知った。そしてそれは音楽だけでなく、食べるものや着るもの、そして個人の身に起きた出来事すべてが政治と直結しているという、アタシの生き方の指針となった。
加山雄三の生誕80周年を記念したアルバムに収録された「君といつまでも(Together Forever mix)」には、こんなリリックがある。「貧乏な家に産まれ落ちたばっかりに しんぼうすることばっか覚えちまった 乱暴者にもなれなかったヘタレ」。
アタシの高校時代を思い返すと、たまに親と会えば借金や破産の話題を耳にしていたので、ECDが語る切実な言葉が琴線に触れた。やがて大人になるにつれ、貧乏だったのは必ずしも親のせいではなく、社会の構造にも理由があるということを知る。働かなくても資産がある人がいる一方で、最低賃金で長時間労働をしながら日々真面目に仕事をしても貧困から抜け出せない人がいる。だからまず、最低賃金を上げてほしい。幸運なことに、いまのアタシは資本主義ど真ん中の慌ただしすぎる労働によって、食べたいものを好きなだけ食べることはできるようになった。それでも、貧乏を表現することはカッコ悪いことではないという発想をくれたのはECDの音楽によってだった。アタシのヒーローが、ただラップをしているだけでなく政治的な闘争をまとった人間だったことは、アタシの人生観に大きく影響を与えている。
連載は今回で終わってしまうけれど、アタシの音楽的欲望と政治的闘争はまだまだ終わらない。いままで読んでくれていた方々、ありがとうございました。この二年間で、結婚したり失敗したりいろんなことがあったかもしれません。またどこかで会いましょう。Together Forever!
MONTHLY SELECTION
Koudlam
¥2,970/Calentito
Young Fathers
¥2,420/Beat Records