若者の海外離れが叫ばれている昨今、積極的に世界に才能を発信している希有な存在がいます。アーティスト、舘鼻則孝氏……東京藝術大学の卒業制作をレディー・ガガの専属スタイリストに見せたことから栄光の道が開け、彼がデザインしたヒールレスシューズは世界的に有名になりました。21_21 DESIGN SIGHTで７月４日から開催されている「イメージメーカー展」（展覧会概要後述）にも参加。そんな飛ぶ鳥を落とす勢いの舘鼻さんのアトリエにお邪魔しました。
トルソーやヒールレスシューズが並び、モードなヴァイブスを放つマンションの一室。お会いした舘鼻さんは、アグレッシブな経歴とは裏腹に、ギラギラしたところはなく若いのに達観しているような風情です。ガラステーブルの上には、伝統工芸品のような細密な花の模様が彫られた赤いヒールレスシューズと、光沢感のあるシックな黒いヒールレスシューズが。実際拝見すると、細部に至るまで完成度が高いことがわかります。そのクラフトマンシップが認められ、メトロポリタン美術館に収蔵が決まったとか。黒いシューズは、ダフネ・ギネスさんから修理のために戻ってきたそうです。
ダフネ・ギネスさんとは、ロンドン出身でギネスビールのご令嬢。大金持ちでセンスが良くて美人でファッションアイコンとして君臨しています。そのダフネさんが舘鼻さんのパトロンの一人だというので、一般人には想像のつかないすごい人脈に戦慄を覚えました。ダフネさんはファンデーションを立ち上げ（セレブの究極的な行為）、若いデザイナーやアーティストを発掘、紹介しているそうです。
「自分のものさしを持っている人がこうやって紹介してくれるのはありがたいですね。僕らみたいな、お金も発信する力もないアーティストにとってファンデーションは重要です」
ダフネさんが立ち上げたファンデーションの企画でオークションを開催した時、マックイーンのドレスに次いで二番目に高値がついたのは舘鼻さんの作品だったそうで、さすがです。毎年、一年分の大量の注文をしにきてくださるとか（大手のブランドに取り込まれて消費されないようにという親心も……）。実際に社交の場でもシューズをはいていて、写真にも残っています。
「この戻ってきた靴もシワがいい感じに入っていて、外を歩いていたようですね」
ダフネさんのセレブオーラを靴から吸い込みたいです。また、レディー・ガガもはいていたことが度々ニュースに取り上げられていました。
「見たこともないくらい背の高いバレエシューズを頼まれたこともありました。MVにも映っていますよ。ガガは本当に優しい人。年が近いんですが余裕を感じました。一度しか会ったことがないのにベストフレンドと言ってくれて……」
セレブがはくとさらに輝きを増すヒールレスシューズ。ぽっくり下駄に着想を得たそうですが、華やかな芸妓のオーラも息づいているようです。
不肖私も、ヒールレスシューズ、はかせていただきました。内部のフィット感がすばらしく、ふだん７センチ以下のヒールしかはかない私でもそんなに負担が感じられません。前の部分がしっかり支えてくれているので安定感もあります。何より背面の筋肉を使うので、自然と背筋が伸びます。女性として数ランク上の高みに押し上げてくれる靴だと体感しました。上から目線になることで女性としての自尊心が高まり、周りも転ばないか心配してケアしてくれるのでお姫様気分に浸れます。フランスのことわざにあるように、素敵な靴は素敵な場所へ連れて行ってくれるのです……。
「イメージメーカー展」
2014年７月４日（金）から10月５日（日）まで、21_21 DESIGN SIGHTにて開催。
舘鼻則孝氏の作品はヒールレスシューズだけでなく、クリスタルのブーツや和のモチーフの美しい高下駄（駐日米国大使キャロライン・ケネディ氏も興味を示していました）など、世界観がさらに広がっています。ヒールレスシューズが体験できるコーナーも。
http://www.2121designsight.jp/program/image_makers/
漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』（祥伝社文庫）『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』（PHP研究所）『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』（光文社新書）『妙齢美容修業』（講談社文庫）『辛酸なめ子の現代社会学』（幻冬舎文庫）。Twitterは@godblessnamekoです。
