【連載第3回】アートセレブのたしなみ/笹川直子:アートコレクターの美女に成功術を学ぶ

都内有数の高級住宅地に佇む立派な門構えの邸宅。夕暮れ時 になると、タクシーで、徒歩で、人々が続々と集まってきます。先日、この館でアート好きの集まるホームパーティーが開かれました。友人に「元大物政治家の 邸宅でパーティーがあるから来ない?」と誘っていただいたご縁で、不肖私も参加することに。

  立派な屋敷で緊張していたのですが、よく見ると部屋のあちこちに現代アーティストの作品が飾られているのに気付きました。入り口には松井えり菜のオブジェ、リビングには大判な布にペイントしたクロード・ヴィアラの作品、田中麻記子のシュールな絵画、マン・レイの写真などが展示。いつの間にかアウェイ感 が和らぎ、最初はぎこちなく壁際で歯科医の方とインプラントについて話したりしていたのが、建設会社の方や建築家と、八丈島の歴史や、縄文と弥生の文化の違いについて語り合ったり、文化的な交流ができました。元大物政治家のご子孫で藍染作家のTさんも会場にいらして、藍染めについてフレンドリーに解説して くださいました。「染料自体が生き物で、発酵しているんです。藍染めには殺菌やUVカットの効果もあるんですよ……」

 このパーティーで、アート作品には、場の空気を活性化させ、社交を促進する効果があることを実感。今回展示されていた多くの作品は、パーティー共催者の笹川直子さんの個人所蔵のものでした。株式会社クィーン代表取締役(ナチュラル系シャンプーuruotteなど販売)であり、アートコレクターでもある美女。アートセレブ感あふれる彼女に、後日、改めてお話を伺いました。

 インタビューの場所は、笹川さんがよく通っているという恵比寿のギャラリー&カフェ、トラウマリス。ちょうど笹川さんが購入した作品が届くタイミングだったとのこと。


 「ejeさんの作品で椅子やランプ、傘など日常品にイヤホンを差し込むと音が聞こえるんです」

 つい先日も、小山登美夫ギャラリーで新人アーティスト中園孔二の大きな平面作品を購入したという笹川さん。海外のアートフェアにも精力的に訪れ、毎年コンスタントに購入。コレクションは100作品前後にのぼります。

 

 アートコレクター道のはじまりは、20歳の時に買ったクロード・ヴィアラの布に描かれた作品。1960年代のシュポール/シュルファスという芸術運動の中心人物だそうです。笹川さん、アートの知識も深いです。


 「エスカレーター式の女子校、女子大で大企業のOLになったんですが、刺激のない毎日で、このまま2〜3年働いて専業主婦になるんだろうなというレールが 見えました。つまんないな、と思っていたんですが、アートの展示を観るのが昔から好きで、よく1人でギャラリー巡りをしていたんです。当時はバブル期で、同僚は華やかにブランド物を買ったりカラオケ行ったりして暮らしていたんですが、私は思い切ったことをやりたいと思っていました。そんな時、出会ったのがクロード・ヴィアラの作品です」

 


 ただ価格が百何十万円して、バブルだとしても若い女性には大きい金額。ボーナスごとに分割返済したそうです。
 「アートを買うことはお金の使い方として貨幣的な部分だけじゃない付加価値があると思います」と、笹川さん。ギャラリーで直接アーティストと交流できることもその一つです。


 「コンテンポラリーアート業界の特徴は、自由で人を肩書きで判断しないところ。アプローチしてみると敷居が低いんです」


 たしかに、デザイン業界、ファッション業界に比べると、排他的でないし格差もそんなに感じません。


 「ブランドバッグとか、ちょっと買うだけで何十万もする。だったらアートの方がずっと安くて、派生する楽しみや広がりもすごいおもしろいです。アートつながりの友達は、この前のTさんもそうだけど、いい人が多いです」

 


 たしかに、アート好きにはそんな悪人はいない気がします。現に、あのパーティーでも、皆さん無防備にバッグをそこらへんに置いていました。でも絶対盗難は起きなさそうですし、アート好きというだけで心を許せる何かがあります。
 才能のエネルギーがこめられたアートを買うことによって、運気も上がってきたという笹川さん。お金は天下の回りものなので、良いものに投資すると、それ以上の何かが返ってきます。お金のポジティブな循環ができているようです。OLさんだったのが、今や女社長に。

 


 「アートを買いたい一心ではじめた仕事がおもしろく展開してきたので、アートに感謝しています」

 


 アートを買って成功する、なんて自己啓発法もありかもしれません。

 「できれば1億くらい予算があればな〜と思います」と、笹川さんは瞳の奥を輝かせました。アーティストのエネルギーを原動力に、彼女はますますご清栄・ご発展していくことでしょう。

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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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