【連載第12回】アートセレブのたしなみ/庭園美術館に漂うやんごとなき残り香

 邸宅好きとしてはこの日が待ち遠しかった、東京都庭園美術館のリニューアルオープン。三年もかけて建物の修復と復原が行われたそうでお疲れさまです。さっそくお披露目の日にアール・デコの館に伺いました。


 まず、玄関扉で出迎えてくれたのはルネ・ラリック作のガラスのレリーフ。神秘的な美女にまた会えて嬉しいです。隣の老夫婦も「なつかしいね」と写真を撮っていました。住んでたのかと突っ込まれそうですが……。改めてこの邸宅が美術館として庶民に開放されることへの感謝の思いがこみ上げます。


 玄関の横には木目調の床とシンプルなソファセットが落ち着く部屋が。説明プレートには「第一応接室」とありました。宮家を訪ねた来賓の御用係や供待ちが主人を待つ部屋として使用されていたそうです。この部屋がいきなり落ち着くと感じてしまう庶民の性(さが)。お供の部屋でも扉や柱はカエデで、床は寄せ木張り、壁紙はスイス製だったり自分のマンションより全然ゴージャスですが……。この部屋を皮切りに、東京都庭園美術館の数々の部屋の細部まで趣向を凝らした芸術性には、溜息の連続です。

 

 「次室」には有名な白磁のオブジェ、香水塔が鎮座。かつてはこの塔から香水のアロマがふりまかれていたそうです。50平米のマンションには絶対置けない大きさですが、この館には違和感なく納まっています。隣のアンリ・ラパンの油彩画が壁にはめこまれた「小客室」も素敵ですが、どこが「小」なのかわかりません。「大広間」には、イヴァン=レオン・ブランショの大理石レリーフ「戯れる子どもたち」が飾られていて、裸体の美少年たちが湖畔でじゃれ合う姿が目の保養になります。局部が描かれていないところに宮家のモラル意識を感じます。「大客室」「大食堂」など、どの部屋にも暖炉とマントルピース的なものがしつられられていました。重厚感あふれるカーテンにはタッセルが。「マントルピース」「タッセル」「シャンデリア」はアッパーな邸宅のマストアイテム(ちなみに一つも持っていません……)。さらに階段には赤じゅうたんが敷かれ、中庭にはプールらしきものがあると思ったら防火水槽で、その堅実さに痺れました。

 

二階には殿下と妃殿下、ご子息のお部屋がありました。「殿下寝室」「殿下居間」「書斎」「書庫」「第一浴室」と、殿下コーナーだけでも家一軒分のスケール感。書斎は天上が丸くなっていて、ガラス製のテーブルも半円形でモダンです。大きな窓から外の緑を見ながらここで仕事できるなんて素晴らしいです。円形の部屋でテーブル周りの気の流れも良さそうです。男子禁制っぽい名称に惹かれたのか、「姫宮寝室」はお客さんで混み合っていました。円形の鏡や花の形の照明、ピンク系のカーテンなど女子力高まりそうです。


 旧朝香宮邸を見ると、◯◯族といった付け焼き刃の成金には決して真似できない、高次元のセンスと一流の美意識に圧倒されます。生まれ変わっても絶対に到達できない高貴さに打ちひしがれた私を迎え入れてくれたのは、復原作業の工程について展示している部屋でした。リシン掻き落としをする職人、香水塔の復原作業に従事した人、ラジエターカバーを修復する作業員などのムービーを観ていたら、どちらかというと私の所属する世界はこっちかも……と改めて自分の居場所を再確認できてよかったです。

 

 

東京都庭園美術館
住所:東京都港区白金台5−21−9

電話:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10:00〜18:00
休館日:毎月第2・第4水曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)
    2015年は1/17(土)より開館
http://www.teien-art-museum.ne.jp

“辛酸なめ子”

辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は「妙齢美容修業」(講談社文庫)「辛酸なめ子の現代社会学」(幻冬舎文庫)。twitterは@godblessnamekoです。

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