【連載第17回】アートセレブのたしなみ/JFKのサバイバル能力

 アメリカのロイヤルファミリー的な存在と言われるケネディ家。華麗なる一族の中でもカリスマ的で光と影のコントラストが激しいジョン・F・ケネディ元米国大統領にまつわる「JFK―その生涯と遺産」展が、国立公文書館で開催されました。会場は竹橋で渋いし平日の午後なので空いているだろうと予測して行ったら、意外にも混んでいました。しかも男性率が高く、実は隠れファンが多いのかもしれません。JFKという呼び名からしてすでにかっこいいです。

 展示はJFKの子ども時代の写真からはじまり、金融業で巨万の富を築いた父、母、そして子どもたちのしっかりしたアゴからはアグレッシブな生命力を感じます。アメリカンドリームとアゴには人相学的な関連性がありそうです。

 JFKの中二の時の成績表もありました。英語はGood、歴史はGood、ラテン語はPoorで苦手だったようです。Very Goodはなく、全体的に普通で、成績からは大統領になる才気は感じられません。でもその後ハーバード大に入学していて実は本番に強いタイプだったようです。

 

 JFKが英雄になったのは、第二次世界大戦でのできごとがきっかけでした。日本の海軍の船にぶち当てられ船体が真っ二つになって船が沈没。JFKは負傷した仲間の体をロープでつなぎ、そのロープを歯でくわえて無人島まで泳ぎきりました。アゴの力がここで発揮。その勇敢でタフな行動が全米を感動させます。しかもその島でヤシの実に原住民へのSOSメッセージを彫るという、尋常じゃないサバイバル能力。

 JFKがすごいのは助かった後の対応です。アメリカの船を沈めた日本の軍艦の艦長花見弘平氏に手紙を書き、親交を深めたのです。「昨日の敵は今日の友」というメッセージと、なぜかサイン入りの顔写真を添えて。この男らしい行動が評判になり、選挙活動を後押ししてくれたようです。男も惚れるのも納得です。議員からスタートし、43歳でついに大統領になったJFK。しかしその任期が全うできないとは本人も予想していなかったでしょう。パレードの最中凶弾に倒れることになるとは……。
 とはいえその悲劇的な死によって彼のカリスマ性はさらにゆるぎないものになりました。宇宙開発を進め、キューバ危機を乗りきり、核兵器の削減や人種差別問題に取り組み、良い功績ばかりを残して勝ち逃げしたような印象です。経歴を見ると、すごい偉人感が……。

この展示では会場が国立公文書館ですし、公的な表の顔しか取り上げていません。ケネディといえば、マリリン・モンローやソフィア・ローレンといった女優からインターンの学生まで、あらゆる女性と交渉していた夜の政治(性事?)の方もすごそうですが、展示には一切出てこないぶん妄想が膨らみます。政治家のテストステロンは半端ありません。キューバ危機より家庭危機が大変だったのでは? と下世話な思いを抱き、会場を後にしました。歴史は女の涙で回っているのでしょうか……。

 

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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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