【連載第18回】アートセレブのたしなみ/クレオパトラの教訓

エジプト関係の展示はいつも集客力が高いイメージですが、ツタンカーメンとならび人気が高いエジプシャンセレブがクレオパトラです。ファラオや国のために身を捧げた王妃たちの人生が垣間見られる「クレオパトラとエジプトの王妃展」に赴きました。
 いきなりクレオパトラのセミヌードの像からはじまった展示。よく見たら毒蛇にかまれる絶命シーンでしたが、蛇と美女の絡みはエロティック。時代を超越したセックスシンボルの存在感が。クレオパトラの関連展示物は後半たくさん出てきますが、それ以外の王妃や王女たちの展示物も豪華です。

まず展示されていたのは王妃ヘテプへレスの輿や寝具セットの複製。寝台のフレームは金箔が貼られ、さすが王妃御用達です。枕は硬い台でしたがエジプト人の美しい姿勢はハードな枕によって作られているのかもしれません。隣のヘテプへレス2世と娘の像はピシッとした直立姿勢でした。
 長い時を経ているので、全体像が残っていない彫像やレリーフも多いです。下半身だけの王妃像もありました。アメンヘテプ3世の王女イシスは、顔の部分が消失。胸のビーズが「美しい」「完璧な」というヒエログリフを表しているそうなので想像力がかきたてられます。
 像を見てわりときれいだったのが、ハトシェプスト。トトメス2世の妃だった頃は可憐さが漂っていて、女王として君臨するようになってからの像は貫禄を増しています。
 アメンヘテプ3世の王妃、ティイのレリーフを見ると切れ長の瞳で整った顔立ち。この展覧会を監修した近藤二郎教授が率いる発掘隊がティイのレリーフがあった墓を調査したそうですが、美人の王妃の墓を再び掘り出していると思うと士気も高まりそうです。

 

 

など、王妃や王女のあと、ついに古代エジプト最後の女王、クレオパトラの登場です。クレオパトラはどれほどのものか、人々の品定めの視線にさらされ続けたクレオパトラの頭部の彫像(ヴァチカン美術館蔵)は鼻の部分が欠けてました。でも、目鼻のバランスが整っていて、カールしたヘアが顔の周りをふちどり、女子力の高さがうかがい知れます。これで声も美しくて知的で語学に堪能だったらモテるのも納得です。全身像のほうは、デザイン的に胸を強調した服装で、出世するために女を使ってそうです。クレオパトラといい仲になったカエサルは大理石像ながらドヤ感がみなぎる表情。カエサルが暗殺されたあとクレオパトラと結託したアントニウスの像も、いかにも美女に弱そうな色男風な顔立ちでした。そんなアントニウスとクレオパトラの連合軍を打ち破ったオクタウィアヌスの彫像は、リア充死ねみたいな卑屈な強さ、非モテパワーがみなぎっているように見えたのは気のせいでしょうか? クレオパトラはメンズとイチャつきすぎて国を滅ぼしたように思います。色ボケせず一心不乱に戦うオクタウィアヌスには勝てません。本物の魔性の女は男を堕落させるだけでなく、国も滅ぼす……そんな教訓を得た展示でした。

 

クレオパトラとエジプトの王妃展
会  期:7月11日(土)〜9月23日(水・祝)
会  場:東京国立博物館 平成館(上野公園)
開館時間:9:30〜17:00、金曜日は20:00まで。土・日・祝日は18:00まで
    (入館は閉館の30分前まで)
休館日 :月曜日(但し9月21日(月)は開館)

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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