フェンディが披露したファーのオートクチュールコレクション、Haute Fourrure (オートフリュール)。パリ以外では東京ではじめて、東京国立博物館で披露されました。カール・ラガーフェルドの思い入れも強く「ファーと言えばフェンディ、フェンディと言えばファー」という格言も残しています。買えない庶民としては「ファー…」と溜息をつくしかありませんが、クリエイティビティとクラフツマンシップを間近で観賞できる機会です。
この日のイベントの前に、ありがたいことにフェンディのPRの方が最新の衣装を貸してくださいました。畏れ多くも、その服を着てブランドのパネルの前に立たせてもらうことに。前後が美人女優とかで、自ら公開処刑されにいくようなものです。そして申し訳ないです。あとで写真を見たらマスコミ席の中に半笑いのカメラマンが写っていました。
しかしそんな自虐の心もファーが暖かく包んでくれるのでしょうか。国立博物館は何度か来ていますが、展示品が見当たらず、黒い絨毯と椅子で展示室が貴族の屋敷のような厳かな雰囲気に。山田優、榮倉奈々などセレブの方々も見かけます。ショーが始まると、つややかに輝くファーをまとったモデルたちが登場。毛皮をストライプ状にはぎ合わせていたり、黒でも色が微妙に違う毛皮でツートーンに組み合わせたり、流線型の模様に見せたり、白に茶色の毛を埋め込んで花を描いたり、毛皮を羽状にカットしたり、デザインが凝っています。一つ一つ手作業とのことで、クラフトマンシップの真髄に感じ入りました。デパートで見かけるようなただボリューミーな毛皮のコートとは違います。太くて長いファーのマフラーを引きずるように歩くコーディネイトも目を引きました。ファーを床に引きずるとは庶民的には考えられませんが(ちょっとしたマフラーでもクリーニング代5000円も……)、これがセレブの遊び心なのでしょう。このコレクションに出ていたファーを着てレストランなどに出かけたら、即一番良い席に案内されると思われる、ゴージャスで格調高いアイテムの数々でした。
その後、パーティが隣の建物でありました。モデルや芸能人などセレブが社交する中、お金持ちそうな人々が二階に上がってゆき、下から見上げるとコレクションのアイテムをまとったマネキンが並んでいるようでした。買う気がある顧客しか入ってはいけないのかと思っていたら、誰でも行って良いみたいで、間近で観賞することができました。さすが平均5000万円と言われるだけあり、大胆さと繊細さを兼ね備えた服の美しさに圧倒されました。それぞれ魂が宿っているようでした。ランウェイで着用していたモデルさんたちは皆崇高な表情でしたが、パーティで仲間と座ってラフに飲んでいる姿を見ると別人のよう。袖を通したら人格が変わる、本物のオートクチュールのパワーに感じ入りました。
漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。