【連載第23回】アートセレブのたしなみ/ウェストンコレクションの美人画の顔面偏差値

日本美術収集家にして元金融系の実業家というまごうことなきセレブリティ、ロジャー・ウェストン氏の肉筆浮世絵コレクションが大々的に紹介されました。菱川師宣、勝川春章、喜多川歌麿、歌川豊国、葛飾北斎、河鍋暁斎といった蒼々たる絵師の作品が集結する「シカゴ ウェストンコレクション 肉筆浮世絵―美の競艶」展。会場の上野の森美術館へ開会式に伺うと、ロジャー・ウェストン氏が登壇。遠目に、実業家のギラギラしたところがないのは、美術品によって癒され浄化されてきたからでしょうか。
 展示はウェストン氏の千点以上のコレクションから129点の、美人画を中心にセレクト。「肉筆浮世絵」という響きがエロいですが(このところの春画ブームの余波が……)、版画が多い浮世絵の中で、筆で直接描かれた一点物の浮世絵は希少価値があるとのこと。
 実際、拝見してみると描写の細かさに驚かされます。鑑賞していたご婦人が「昔の人は目がいいのね」なんてつぶやいていましたが、髪の生え際や着物の柄などが1ミリ以下の線で描きこまれています。展示は17世紀前半の作品から始まりました。切れ長の目で色白、赤い唇が艶やかな美人たちが描かれています。中性的な若衆も色香があります。そして菱川師宣の「江戸風俗図巻」に描かれた男女の顔立ちは小作りだけれど整っていて可愛いです。しかも珍しく一重ではなく二重まぶたの美人画も。菱川師宣に追随する絵師も、二重の美人画を描いている人が数人いました。現代の価値観でも美人に入る、パッチリした目でした。顔面偏差値にして65以上です。宮川長春の「風俗図巻」をじっくり見ると、約二十人の美女のうち二重は二人。縄文系の顔立ちは当時意外に少なかったのでしょうか。一重の方が正統派美人とされていたのだと思われます。

 

 目の形でいうと、複数の作品でモチーフとなっている遊女の浮世絵。その目の多くが俗に言う半月のような「エロ目」であることに、絵師の観察力を感じました。エロ目で顔がほのかに赤らんでいて、秘められた欲望で火照っているようです。
 女性の目は、次第につり上がってゆき、初代歌川豊国の作品くらいから、かなりデフォルメが進行。目は30度位角度がついて、鼻は伸び、顔も長くなり、唇は受け口、もしくは口角が下がったへの字口。時には下唇だけ緑色に塗られることも。顔面偏差値的には、計測不能です……。
 浮世絵界で最大派閥を有していた歌川豊国なので、自らの攻めの精神が投影され、女性の顔が攻撃的な感じになっていったのかもしれません。現代の萌え系のかわいさとは対極的な表情です。女の怖さ、魔性についても考えさせられます。歌川一門の作風はだいたい目が吊り上がっていますが、着物の描写は繊細で美しいです。

 

 

シカゴ ウェストンコレクション
肉筆浮世絵—美の競艶展

会  期:2015年11月20日(金)〜2016年1月17日(日)
会  場:上野の森美術館(東京)
開館時間:10:00〜17:00(金曜日は20:00まで)
     入館は閉館の30分前まで
休館日 :月曜日、1/1(金)
     但し1/11(月・祝)は開館

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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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