【連載第13回】アートセレブのたしなみ/ジャニーズワールドのめくるめく世界

 ジャニーズの舞台は一度は観ておいた方が良い、と妙齢の女性の間では囁かれています。不肖私もこれまで「滝沢歌舞伎」「Endless SHOCK」「PLAYZONE」など拝見させていただき、現実の悩みや辛さをその時間だけは完全に忘れ、心が癒される霊験を体感しております。
中でも最もトリップ度が高いのが「ジャニーズワールド」(通称ジャニワ)。
2012年に、ジャニー喜多川氏のギネス世界記録樹立を記念してはじまったミュージカルなのですが、何度観てもその超常的でスペクタクルな世界観に心奪われ、「ジャニワ」を知ってしまってからは、一般の舞台を観ても全く驚かなくなってしまいました。

 「2015新春 JOHNNYS' World」で、今年も初萌えを感じました。会場はセレブ感漂う帝国劇場。椅子も快適で、食べ物関係も充実しているのが老体にはありがたいです。そして今回はプロデューサー役で錦織一清が活躍しているのが往年の少年隊ファンにとっても嬉しいことでしょう。

 ストーリーは常人の感覚では説明するのが難しいのですが、プロデューサーが常軌を逸した舞台を演出し、「あんたは狂ってる!」と批判されます。主演のSexy Zone中島健人は「やめろ! 俺をあんたの頭の中に巻き込むな!」と動揺して叫び、フライング回転。いつしか宇宙空間に飛び出し彗星が爆発。普通なら死んでますが、イケメンはNever Die。いつしか健人は暦の世界に迷い込みます。
「13月を探す」とプロデューサーが宣言し、1月から12月まで、イケメンカレンダーが目の前に展開。1月は水をほとばしらせて叩く和太鼓、3月は華やかな桜など……。しかし4月はタイタニック号の沈没(船が出てきてナナメに傾くところなどリアルです)、5月はヒンデンブルグ号の爆発、6月は戦争で鎖を付けられた美少年捕虜が行進、7月は終戦(A.B.C-Z 塚田僚一が激しくバク転)、途中巨大な金の龍が出てきて戦うシーンもありましたが、全体的に悲劇が多いです。
「悲劇は芸術の母……」とニッキは言っていましたが、何より美少年と悲劇は相性が良くて美しさを際立たせると実感。
圧巻だったのは、滝と川のセットに大量の水が流れ、ビショビショになりながら殺陣を行うシーン(平維盛の戦い)。健人がやられそうになり、佐藤勝利が助けに入ろうとするのですが「歴史を変えてはいけない!」と止めるニッキ。しかし次の瞬間そういうニッキが斬りまくっていましたが……。敵に斬られて息絶えた健人は天使に運ばれていきます。
でも、休憩時間のあとは復活しているので安心です。

第2幕は楽しい歌やダンスのショーから始まります。
マリウス葉の流暢な英語も聞けました。しかしそこに生き返った健人がヨロヨロと現れ、彼は先の戦いで勝利を殺めてしまったと思い、己の残酷な本性に悩み、悶え苦しみます。
「もう人を愛してはいけないのかな? ハハハハ!」「俺を葬ってくれ!!」と半狂乱で時折笑いながら叫ぶ演技がすごかったです。激しく回転しながらフライングし、ブラックホールへ。でも結局プロデューサーに救われ、宇宙人と遭遇して、地球の良さに気付かされます。勝利と健人は仲直りしてハッピーエンドに。
「地球は人間が住むためにできた星……」「地球をよみがえらせるのはオレたちの使命だ!」「瀕死の地球を救おう!」と、世界平和を目指す流れになって、フィナーレ。
ノーベル平和賞への意欲を感じさせましたが、間違いなくイケメンは世界を救います。

 このストーリーもすごいですが、女性ファンは舞台の展開に翻弄されず、細かく、このシーンで誰と誰が目を合わせたので萌えたとか、立ち位置をさりげなく直したのがかわいかったとか、宙吊りになったとき唇を噛み締めていたとか、好きなメンバーの細かい動作に着目できているのに驚かされます。
「ジャニーズワールド」は人間の潜在能力を開発する舞台かもしれません。

“辛酸なめ子”

辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は「妙齢美容修業」(講談社文庫)「辛酸なめ子の現代社会学」(幻冬舎文庫)。twitterは@godblessnamekoです。

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