【連載第20回】アートセレブのたしなみ/ブルガリのジュエリーのブリリアントな魔力

「アート オブ ブルガリ 130年にわたるイタリアの美の至宝」が東京国立博物館表慶館で開催。東京国立博物館は最近ハイブランドと相性が良いみたいです。創業からの250ピースの重要な作品を展示。高額の品もあるそうで、ブルガリのジュエリーを間近で拝見できて観覧料大人1400円は安いかもしれません。個人的にはブルガリのレストランのパンがおいしかった、というくらいの関わりしかないですが、宝石のエネルギーを吸収したくて展示会場に赴きました。

創始者のソティリオ・ブルガリは銀細工師の血筋。ギリシャからイタリアに渡り、ローマで店を構えます。ネオ・ヘレニズム様式の銀細工の飾りが評判となり店は繁盛、ブルガリの礎を築いたそうです。そして時代によって使う貴金属や様式を変えることでますます発展していきました。
 1920年代は幾何学的で直線を用いたアール・デコ様式で、プラチナやダイヤモンドを多用していました。繊細な細工がほどこされたプラチナがダイヤモンドの透明度を増幅させているようです。そしてサファイアの何ともいえないブルーの美しさに吸い込まれそうです。1940年代は、イエローゴールドのジュエリーが増えて、デザインもソフトに。品のあるデザインなのでボリュームがあっても成金っぽくなりません。1950年代以降は、カラフルなジェム・ストーンで華やかに。映画スターが身につけることで人気も高まりました。ルビーやダイヤモンドをあしらったプラチナのジュエリーは、お姫様キャラの人じゃないと似合わなそうです。そして「セブンワンダーズ」と呼ばれるネックレスの展示が。「七不思議」とパネルに書かれていて、ついにいわくつきの宝石の話かと心を躍らせかけたのですが、透明度やカットがパーフェクトで非常に大きくて珍しいコロンビア産の7つのエメラルドで構成されているという、ただただ素晴らしいネックレスでした。しかしそのネックレスを1963年に身に着けたイタリア人女優のモニカ・ヴィッティは、けだるげにタバコを吸っていて、その煙が宝石に悪いのではないかと庶民ながら気になります。さらに1966年にネックレスを身に着けたジーナ・ロロブリジーダが、大口を開けてソフトクリームをなめる写真が。ハイジュエリーを付けてお行儀の悪いことをするのがスノッブでかっこいいとされていたのでしょうか。

 他にも、ブルガリの様々なジュエリーを、キーラ・ナイトレイやメリル・ストリープ、エリザベス・テイラーなど名だたる女優たちが身に付けている写真があり、中には日本の誇る宮沢りえの姿も。最近、某芸人女性が、洋服屋で「うちのブランドの服を着てテレビに出ないでくださいね」と言われたという話がニュースになり、本当にひどい話だと思いましたが、かつて某子役出身俳優がラコステに「商品イメージが悪くなるので」と着用を断られた話もあったり、ブランド側は着る人をシビアにチェックしているようです。なので、ブルガリがジュエリーを貸してくれて記録にも残してくれるセレブは、一流だということになるのでしょう。調子に乗ってソフトクリーム食べたりタバコを吹かしたくなる気持ちもわかります。
 1970年代は東洋、そして日本の美術に影響を受けた仏像や松のデザインが印象的でした。1980年代の、イエローとヴァイオレット、グリーンとレッドといった正反対の色を組み合わせた大胆なデザイン、そしてセレブしか着こなせなさそうな難易度の高いチョーカーなど、時を経るごとに発展していくブルガリのセンス。1990年代の、生物多様性にまつわる、花や貝、魚のモチーフもかわいかったです。しかしブルガリといったら、何と言っても蛇。銀座のブルガリ 銀座タワーには蛇が絡み付いています。蛇、イタリア語で「セルペンティ」と言うとおしゃれですが、ブレスレットやウォッチなど蛇アイテムが多いのが特徴です。憧れの蛇形時計。堅気じゃない感が出て一目置かれる女に……。展示には「セルペンティ」は「知恵、生命力、永遠の象徴」と書いてありましたが、やはり蛇といえば金運という説が日本では根強いです。富める者が金運アイテムでますます富む……そんな格差を前に無力感を覚えつつも、せめて今日見たジュエリーの輝きを永遠に記憶にとどめたいと思いました。

 

「アート オブ ブルガリ 130年にわたるイタリアの美の至宝」
会  期:9/8(火)〜11/29(日)
会  場:東京国立博物館 表慶館(上野公園)
開館時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
     10月31日(土)~11月2日(月)は20:00まで開館
休館日 :10月13日(火)・19日(月)・26日(月)
     11月 4日(水)・ 9日(月)・16日(月)・24日(火)

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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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